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今までにこの学園でこういったことが起こらなかった訳ではない。ただそれは何年も前の話であり、騎麻と悠仁が学園のトップに立ってからは目立った事件すら無かった。そう、つまりみんな油断していたのだ。 保健室に着くと中にはレイラと悠仁の二人だけだった。上気した顔が熱のせいなのか薬のせいなのかは分からず、しかし力無くベッドに横たわる姿に何とも言えない気持ちになる。 かける言葉が見つからずそっと無言でレイラの頬に触れる。触れた後に男に襲われた直後でまずかったかと気づいたが、嫌がる素振りを見せない様子に内心ホっとした。 騎麻に言われ、レイラを寮まで連れ帰った。途中緊張の糸が切れたかのように怖かったと泣き始めた様子に、胸が締め付けられる思いがした。 その初めて見た泣き顔はとても綺麗で、しかし、もう二度と見たくはないものだった。普段の笑顔や少し拗ねた顔、悪戯をする子供のように無邪気な顔とは違い、弱りきった表情は見ていて辛い。 離れたくない、一緒にいてくれと言う言葉に熱い身体を抱きしめる。それでお前が安心するなら、お前の笑顔が早く戻ってくるなら、そう願い柔らかな髪へと顔を寄せる。しばらくして腕の中から聞こえてきた寝息を聞きながら思う。 (お前の事は俺が守るよ、レイラ) 今回守ることの出来なかった、涙を流させてしまった俺の愛しい子。こんな思いは二度とさせてはいけない、二度とこんな思いはしたくない。 (嵐太郎視点終了) どれくらいの時間眠って居たのだろう。眠る前に目の前にあった優しい体温が、今はない。胸を駆け上がる不安をどうにか抑え、ベッドに腰をかける。自分が寝ていた隣に温もりを感じ、先程までここにいたであろう人物を探す。 すると、共同スペースの方から微かに聞こえる話し声。まだ熱が下がっていない覚束無い足で、どうにか扉まで辿り着く。 「らんちゃ・・・?」 そこには探していた嵐ちゃんの他に騎麻、そして委員長の姿があった。俺の声を聞きすぐに近くに来て、体を支えてくれる嵐ちゃんにしがみつく。一緒に居てっ言ったのに・・・。 「悪い、こいつらが丁度話をしに来て。もう一度寝るか?」 「んーん、俺の話でしょ?・・・一緒にきく」 俺の言葉を聞き、嵐ちゃんが俺を抱き上げそのままソファへと腰をおろす。後ろから抱き締めるように手を回され、少し擽ったい。 「レイラ、身体は大丈夫か?」 大丈夫では無いけどさっきよりは大分楽、心配そうにこちらを見つめる騎麻に素直に答える。そしてその隣に座る委員長へと視線を動かし、 「委員長さっきはありがとう。・・・スッキリした」 「い、いや、楽になったなら良かった」 少し挙動不審気味の委員長。なんでそんなに嵐ちゃんの顔を伺っているのだろう。俺を抱きしめている腕に少し力が入る。 「で、話の続きになるんだが、レイラを襲った生徒、2-D山中孝樹だが、あいつはもうこの学園にはいない」 風紀に捕まえられた後、寮の部屋や持ち物を調べた結果、あいつは俺のストーカーだった。部屋中に貼られた俺の盗撮写真に、何に使うつもりだったか想像できる手錠や薬、道具の類が多数見つかったらしい。 普通の暴力事件なら停学や謹慎処分だが、今回の事件は性犯罪。そう、犯罪なのだ。俺の名誉のためと、TOKIWAの影響力を考え公にされることは無いが、然るべき機関に山中の身柄は預けられたという。 この短時間でと思うが、事件が起きたのはここ天羽学園で被害者は俺。TOKIWAのテリトリーで起こった事件としては、当たり前の結果だろう。未遂で済んだとは言え、事の代償はあまりに大きいのだ。 「今回の事で俺達は更に学園のシステムを強化しようと思う」 また今後のことは後日、体調が良くなってから話そうと言い残し騎麻と委員長は帰っていった。終わってしまえば何かあっさりしていた気もするが、今日は俺の人生でもトップレベルで濃い一日だったと思う。嬉しくはないが。

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