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そう思ってしまうと一気に不安が押し寄せ、床を拭く嵐ちゃんの背中に抱き着く。
「嵐ちゃんごめんねっ俺のこと嫌いにならないでぇー!」
「うわっどうした急にっ」
いきなり半泣き状態で抱き着いた俺に驚いた様子の嵐ちゃんがこちらを振り向く。
「いっつも嵐ちゃんに迷惑かけて、甘えてばっかだから、嵐ちゃん俺のこと面倒臭くなっちゃう・・」
迷惑かけてる自覚あったのかという嵐ちゃんの呟きにドキリとする。会ってまだ一ヶ月も経たない嵐ちゃんに甘え過ぎている自覚は前からあった。そんな俺に多少の文句を言いつつも、いつも相手をしてくれる嵐ちゃんは優しい。でも嵐ちゃんは優しいから、実は心の何処かで俺の事を面倒臭いと思っていたとするとーーー。
「ぅっ、らんちゃっ・・・俺、もっと、ぅ、しっかりするから、きら、ぃに、なっちゃゃだぁ〜っ」
そんなの悲しすぎる。俺は多分嵐ちゃんの事を特別に思っている。どう特別かと言われるとわからないが、俺の中でとても大きな存在なのは確かだ。だから嫌いになって欲しくない、そう思うと感情が暴走したように涙が出てきてしまう。
そんな俺の様子を見て嵐ちゃんが何かを言っているがよくわからない。涙で嵐ちゃんの表情も声も上手く聞くことが出来ない。
その時、嵐ちゃんが俺の身体を思い切り抱き締め、嗚咽混じりの俺の口を自分のそれで塞いできた。何で今キスをするのか分からない。けど、優しく背中をさする手に少し涙が収まる。恐る恐る嵐ちゃんの首に手を回すと、それを合図にするように嵐ちゃんの熱い舌が入り込んでくる。
ゆっくりと確かめるように口内を動く舌を夢中で追いかける。その間も背中や頭を優しく撫でる手に頭の中の不安が少しづつ消えていく。暫くしてそっと唇を離した嵐ちゃんが、俺を真っ直ぐ見つめ、
「俺がお前を嫌いになる事はない。面倒臭いとも思ってないし、むしろ沢山甘えればいいと思ってる」
「ほん、と?」
本当に面倒臭いと思ってない?俺を嫌いにならない?そう尋ねる俺の目元にちゅっと軽く口付けし、嵐ちゃんが優しく微笑む。
「あぁ。俺は変わってるみたいで、お前にかけられる迷惑や面倒がどうも嬉しいみたいなんだよ。だからもっと頼られたいくらいだ」
ま、今回みたいに俺の居ない所でぶっ倒れられるのは心臓に悪いから止めて欲しいけどな。そう続ける嵐ちゃんがあまりに優しく笑うので、思わず再び目の前の大きな体に抱き着く。
「あと、俺はお前の涙に弱いみたいだから、あんまり泣かないでくれよ」
そう言い俺の体をしっかりと抱き締めてくれる嵐ちゃんにコクコクと何度も頷く。良かった。嵐ちゃんに嫌われてはいなかった。
その事実が嬉しくて忘れていたけど、今の一連のやりとりの間中俺はずっと全裸のままだった。
「そろそろ離れて服着ないと、襲うぞ」
そう耳元で囁きながらお尻を撫でられ漸くその事実を思い出す。無駄に色気を含んだ掠れた声を出してくる嵐ちゃんの顔は、さっきの優しい笑顔ではなくいつものニヤリと口角を引き上げた、少し悪そうな男の顔をしていた。
「お前って熱とか体調悪いと急にネガティブになるタイプだろ」
「・・・多分そうだと思う」
服を着て共同スペースに戻った時には体調も完全に戻っており、冷静になった頭で先程の状況を思い出し赤くなる。嵐ちゃんは面倒臭いとも嫌いとも一言も言っておらず、全ては勝手に落ち込んで勝手に不安になった俺の思い過ごしであった。
「嵐ちゃんさっきの全部忘れて・・・」
「さっきのってのは、俺に嫌いにならないでって泣いて抱き着いた事か?」
言葉に出されると恥ずかしすぎて辛い。さっきの優しく微笑む嵐ちゃんは幻だったのだろうか。
「仕方ないじゃん、俺嵐ちゃんの事凄く好きみたいなんだし」
「みたい、ねぇ?」
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