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「連れてきたぞ」 「嵐太郎さん、わざわざありがとうございます」 「・・・俺は向こうにいるから終わったら声をかけろよ」 「はい」 嵐ちゃんと話すファンクラブの代表だという男は、とても姿勢が良く引き締まった体をしていて、キリッとした顔が武士みたいだ。 「常磐さん、あなたも来てくれてありがとう。俺は二年の藤後晃太だ。嵐太郎さんとお付き合いをする事になったと聞いて、是非一度話をしてみたいと思い足を運んで頂いた」 武士先輩は晃太くんと言うのか。イメージは武蔵とか小次郎だったんだけど・・・。別に残念だとか思ってないから。 「単刀直入に言う。俺と勝負してくれ」 「・・・え?」 ちょっとよくわからなかった。勝負とはなんだ、俺と決闘でもしようっていうこと? 「なんのために勝負するの?」 「実は、」 晃太くんの説明によると、今まで初等部から天羽学園に在籍する嵐ちゃんだが、学園内に恋人がいた事がないらしい。そこにまだ編入して一ヶ月の俺と急に付き合い始めたと聞き、まぁ簡単に言えばそんな急に出てきた奴に俺達の兄貴を渡していいのか、騙されているんじゃないかと抗議の声が上がったんだとか。あ、それがさっきから少し離れた所で俺達の様子を伺っている人達かな。 そんな事知るかと言いたい所だけど、今まで嵐ちゃんに憧れ慕ってきた人達にとっては大切なことなんだろう。俺としても何か不満を持たれた状態は嫌なので、受けてやろうじゃないか、その勝負! 「勝負の内容はあなたにお任せする」 「え、俺が決めていいの?」 「こちらの都合で行う勝負だ。あなたが得意なもので構わない」 俺の得意なものか・・・。勝負というからには勝ち負けがしっかりしたもので無くてはならない。何でもいいってのは自由なようで、逆にやりずらい。 「晃太くんて何か格闘技とかやってる?」 「空手と剣道をしている」 空手と剣道。道理で体幹もしっかりしているわけだ。 「じゃあ、腕相撲で勝負ね!」 勝敗もわかり易いし道具も要らない。今すぐここで決着も付けれていい。なのに、腕相撲と聞いて唖然としている晃太くんは何故だろう。 「いいのか?言っては悪いがあなたのその細腕で俺に勝てるとは・・・」 「いーのー!」 失礼だな!俺は意外と筋肉あるんだぞ、ぷんぷん。俺が良いって言ってるんだから勝負だこらー。近くで見守っていた男達の中から適当に一人を呼び寄せ、レフリーをお願いする。机などはないので、ベンチプレスのベンチ部分を使いお互いに手を組む。腕まくりをしたことによって露出された晃太くんの腕は、筋肉で厚みがあり握った掌もゴツゴツとしている。一方俺はというと、肉が少ないので筋肉の筋は目立つけど、厚みもゴツさも一切ない晃太くんに言われた通りの細腕。 「レディ・・・GO!!」 「っっ!?」 掛け声と同時に脇を締め肩の位置を下げる。そのまま相手の手首を返すように勢いよく力を込めた。勝負は一瞬で終わった。唖然とした表情のまま固まる晃太くんに向けニヤリと口角が上がる。 「俺の勝ち」 「・・・そのようだ」 『うおぉおぉぉぉ!!!!!』 「っ」 その瞬間今まで遠くで静かにこちらを見守っていた男達が急に歓声を上げ近づいてきた。瞬く間に周囲を様々な男達に囲まれ、俺は多分今かなり困惑状態。あれ?みんな俺と嵐ちゃんの関係に反対だったんじゃないの?何で晃太くんが負けて嬉しそうなの? 「終わったか?」 「嵐ちゃんっ」 近くに嵐ちゃんを発見し思わず隠れるようにその胸に飛び込む。なんなの嵐ちゃんのファンクラブの人達!全然状況がわかんないんだけど! 「こいつら別に最初から反対なんかしてねぇよ」 「???」 会った時からずっと堅い表情をしていた晃太くんも今は柔らかく微笑んでいる。周りにいる男達もみんな笑顔でこちらを見ていて、確かに反対されている雰囲気はない。じゃあ俺は何故勝負を挑まれたんだ。 「嵐太郎が選ぶ相手に間違いがある訳ないからな。ただちょっと揶揄うだけのつもりだったけど、・・・まさか負かされるとは思っていなかった」 「こいつ前にここで初心者なのに70kgのベンチプレス上げてたからな」 「まぢかよ。完全に見た目に油断したな・・・」 俺を置いて話が盛り上がる嵐ちゃんと晃太くん。つか、晃太くんさっきまでと話し方違うし、嵐太郎さんとか言ってたじゃん。周りの人達も楽しそうに言葉を投げかけている。

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