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怖くない、怖くないよ!?

ギャァァアァァアァッッ 「ひっっ」 「っう」 「ッッ」 まずは気分を盛上げるためにと、事前に持ってきていたホラー映画を観始めた。薄暗くした部屋の中で唯一光るテレビの中では、生首がゴロゴロと転がっている。日本のホラー映画は初めて観たけど、海外のグロさを含んだ肉体的ホラーとは違い、精神的に恐怖が生まれてくる。なんかトラウマになりそう。 画面に映る俳優達と一緒に先程から悲鳴を上げている安ちゃんと凌、そして声こそ出していないが隣から伝わるビクッとした震えでこのくんも、どうやらホラー映画は苦手なようだ。ちなみにこんな人の事ばかり分析をしているけど、今、俺もめっちゃビビっている。普通に怖い。握りしめたクッションに力が入り、何か違うことを考えてないと無理。 「いやぁ、なかなか怖かったな」 「ほんと、夢に出ちゃいそうだね」 どうにか最後まで見終わると騎麻と響ちゃんがそんな感想を言うが、本当に出そうなので止めて欲しい。嵐ちゃんも特に怖がっていた様子は無いし、要に至っては途中から寝ていた。 「じゃ、大分外も暗くなったし余韻の残ってるうちに行っちゃおうか」 騎麻が軽く言うが、もっと周りの状況を見てから言って欲しい。多分俺はそんなに顔に出ていないと思うけど、このくんなんてさっきから一言も発さずに顔も真っ青だ。凌なんて肝試しに行く前から涙目だし、安ちゃんも何故か遠くを見ている。 「さっさとペア決めようぜ」 「くじでも作りますか」 さっきまで寝ていたくせに要がテキパキと紙とペンでくじを作り出す。普段無関心なくせになんでいきなりやる気出しちゃうの。 すぐに完成したくじをみんなで一斉に引く。そして決まったペアは、 騎麻&響ちゃん 嵐ちゃん&要 安ちゃん&凌 このくん&俺 ・・・これはまずいんじゃないかな?しかし騎麻達はさくさくと準備を進めてしまい、騎麻達から順に出発することになった。 別荘を出て山の方へ進む道の途中を左にそれると、古いお寺がある。そのお寺の裏に小さな祠があるので、そこにそれぞれカードを置いてきて、最後の俺とこのくんはカードを回収してくるという簡単なミッション。 往復しても15分程の道のりなので5分おきにスタートする。初めの騎麻達がスタートして5分経ち嵐ちゃん達がスタートした。別荘に残っている俺達四人に会話は無く、手元の時計の音だけが小さく響く。 「じゃ、じゃあ俺達も行くからっ」 「無事にまた別荘で会おうねっ」 二人が出発した数分後、騎麻と響ちゃんが別荘に戻ってきた。 「いやー、なかなかスリルあったな」 「ね、まさかあんなのがあるなんてね」 「えっ何かあったの!?」 戻ってくるなりそんな事を言う二人に隣のこのくんがピシリと固まる。それに気づいているのかいないのか、多分気づいているんだと思う。しかも結局何があったのかは、はぐらかすだけで何も教えてくれず、 「ほら、5分経ったよ」 「気をつけて行っておいで」 出発の時間をむかえた俺達を急かすように送り出す。出発して割りとすぐの地点で嵐ちゃん&凌ペアと遭遇したが、 「気を付けろよ」 それだけ言うと二人は別荘に向けてすぐに歩き出してしまう。いやいや、何に気をつけたら良いのか教えてよ!そう心の中で叫びつつもゆっくりと足を進める。 「・・・レイラ」 「?どうしたのこのくん」 ずっと黙っていたこのくんに急に名前を呼ばれ振り返る。先程よりも更に顔色が悪くなった気もしなくはない真剣な顔で、こちらを見つめていた。 「手を、繋いで行かないか」 「・・・いい考えだと思う」 お互いの手をガッチリと組みまた歩き始める。怖い気持ちは無くならないけど、他人の体温を感じることで若干落ち着きを取り戻す。少し汗ばんだこのくんの手を握りながら、ふと急にこのくんと初めて接触した日の事を思い出した。 「このくんって、手より先に俺のちんこ握ったよね」 「ぶはっっ」 何を言い出すんだ!と慌てた様子のこのくんも多分今のであの時の状況を思い出したのか、青かった顔が少し赤くなっている。 薬のせいで苦しんでいた俺を助けてくれたのはこのくんだし、初対面だなんて気にしている余裕も無かったけど、今思い出すと凄く濃厚な初接触だ。 「・・・あれから、変な奴とかに絡まれたりしてないか?」 まだ顔は少し赤いまま気遣うように声をかけてくれるこのくん。 「全然、みんなが過保護なくらい見守ってくれてるし楽しく過ごせてるよ」 「そうか」 ギャァァァアアッッ 「「!?!?」」 心配するような表情が少し和らいだのと同時に、進んでいた道の先から悲鳴が聞こえた。繋いでいる手にビクッと力が入り、折角落ち着いてきた心臓がバクバクと脈打つ。 「い、今のって、凌と安ちゃん?」 「そ、そうだな」 お互いに顔を見合わせゴクリと息を呑む。恐る恐るまた足を進めていると、目的のお寺が見えてきた。

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