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小さなひっかかり

十六弥くん達の話していた通り別荘から海の方へと少し車を走らせた所にあった洞窟。知らないと分かりにくい場所にあり、夏なのに少し肌寒く、奥へ進むとそこには幻想的な風景が広がっていた。 乳白色の柔らかな色味の自然の力によって出来た突起に、ライトの色が反射し様々な色が映る。その光景がとても綺麗で心が穏やかな気持ちになる。 「すっごい綺麗だった〜」 「いい所に連れてきてもらったね」 洞窟周辺を少し探索してから別荘に戻る間、みんな先程みた光景への感想で持ち切りだった。別荘に着いてからは晩御飯を十六弥くんと亜津弥くんが作ってくれることになり、俺達はリビングでまったりと寛ぐ。 「ふぁ〜っ」 「レイラ眠いのか?」 「んー、」 そういえば十六弥くん達の急な訪問で忘れていたけど、昼寝をしに別荘に戻ったのに全然寝る暇が無かった。思い出してしまうと急に眠気が襲ってくる。ゆっくりと下がってくる瞼をどうにか元の位置に戻そうとするけど、次第に抵抗する気も無くなってしまう。 「晩御飯までまだ時間もあるし寝てもいいよ」 隣に座るサハラにそう言われ、そのままサハラの膝を枕に寝る姿勢をとる。緩く頭を撫でられるとすぐに意識が夢の中へと沈んでいくのを感じた。 (嵐太郎視点) 「嵐、サハラにいつものポジション取られたな」 騎麻に言われ正面へと視線をやると、サハラの膝枕で丸くなり眠るレイラの姿が目に写る。先程から眠そうにしていた姿は目に入っていたので、いつものように俺の元へ来て寝るものだと思っていた。別に兄弟相手に嫉妬などは無いが、少し寂しく思っている自分に驚く。 昼間、急に別荘に現れたレイラの父親には以前一度会った事がある。前に会った時は俺とレイラは同室者の先輩後輩といった関係だった。が、今は恋人同士だ。お互いの関係が大きく変わった訳では無いが、大企業の常磐を相手にしているということを父親を目の前にして実感した。 「そういえば嵐太郎、レイラと付き合い始めたらしいな?」 十六弥さんの言葉に一瞬ドキリとした。しかし十六弥さんやレイラの兄弟達の反応は思っていたものと全く違い、かなりあっさりと俺達を受け入れるものだった。 驚くと同時にかなりほっとした自分が居り、心では否定されても別れるつもりもこの関係を止めるつもりも無かったのに、不安だったことを知った。その時の俺を見つめるレイラの表情が一瞬寂しそうに見えたが、すぐにいつもの緩く笑った表情になったので気のせいだったのだろうか。 しかしその後洞窟へ出掛けた時も別荘に戻ってからも、普段通り話したりじゃれてきたりはするがすぐに兄弟の元へ行ってしまう。久々に会ったのだから仕方ないとは思いつつも、何か少し違和感を感じた。 (嵐太郎視点終了) どれくらい時間が経ったかは解らないけど、頭を優しく撫でる手の感覚と漂ってくる美味しそうな匂いに意識が浮上していく。 「あ、レイラ起きた?」 「もうご飯出来てるよ」 覗き込むように顔を寄せてきたのは俺と同じ色をした兄、カエラとサハラだ。甘い香りのする二人に少しの間離れていただけなのに懐かしさを感じ、同時に最近で嗅ぎ慣れたほんのり漂う柑橘系の香りじゃない事を寂しく思う。 昼間、十六弥くんに付き合っている事を言った時の嵐ちゃんはかなり緊張していたと思う。そして十六弥くん達の反応を見てとても安心していた。 それが普通の反応だとは頭では分かっていても、嵐ちゃんが俺達の関係に"受け入れられない"可能性を感じていた事を、少し寂しく思った。考え方や物の捉え方は人それぞれだけど、嵐ちゃんはきっと俺達の様な考えだと勝手に思い込んでいたのかもしれない。なんとなく心に小さな引っ掛かりを感じている事に気づかないふりをする。

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