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突きつけられる事実
「はじめまして、常磐レイラです。本日はお招き頂きありがとうございます」
流石に俺だって今日くらいは敬語を使う。目の前に座る長身で体格の良い、嵐ちゃんを大人にして渋くしたような雰囲気の嵐ちゃんのお父さんと、こちらも身長が高くスラリとした嵐ちゃんのお母さん。少し離れたソファに座るこれまた嵐ちゃんとよく似た雰囲気の20代半ば程の男の人は嵐ちゃんのお兄ちゃんだろう。
「ご丁寧に。嵐太郎から話は伺っているよ。騎麻君の親戚で、学園では嵐太郎と同室なんだってね」
黙っているとかなり威圧感のある嵐ちゃんのパパだけど、話し出すとその声も雰囲気もとても柔らかな人だ。
「嵐太郎は学園ではどんな感じかしら?あまりこの子は自分の話をしないから」
「とても頼りになりますよ。多くの生徒にも慕われていますし」
パパの隣に座る嵐ちゃんのママはショートヘアがとても似合うクールな印象で、騎麻達のママで弁護士の華南ちゃんと少し似た雰囲気を持っている。
「父さん、母さん、兄貴も聞いて欲しいんだけど、」
「どうした改まって」
挨拶もそこそこに嵐ちゃんが話を遮るように家族へと切り出す。そう、今日俺はただ嵐ちゃんの家に遊びに来た訳では無い。
「俺が今日レイラを呼んだのは後輩として紹介する為じゃなく、俺の恋人として紹介する為に来てもらったんだ」
ほんのちょっと前までこちらに笑顔を向けていた嵐ちゃんの両親が、何を言ったか理解出来ていないのか唖然とした表情で固まる。
「ちょっと、ちょっと待て。恋人って、何を言っているんだ嵐太郎」
「それは、何かの冗談なのかしら?」
言葉の意味を理解した二人が少し慌て気味に嵐ちゃんへと聞き返す。まるで信じていないというか、理解出来ないといった表情に、あぁ嵐ちゃんが不安に思っていた反応とはこういった事なんだなと、漠然と理解した。
理解が出来ない、受け入れられない、そういった感情が言葉にしていなくても伝わる。今まで向けられたことの無い感情に、一瞬心臓にドクリと嫌な振動を感じた。それでもしっかりと前を見つめる嵐ちゃんを見、すぐに落ち着きを取り戻す。
「冗談なんかじゃない。レイラの家族には報告済だ」
「報告済って・・・、レイラ君の家はあのTOKIWAの、」
「第一あなた達は男同士じゃないっ」
冗談で言ってるわけじゃないことを理解した二人は更に慌て出す。嵐ちゃんのママの言葉にやっぱり取り乱している原因はそこだよなと再確認する。
嵐ちゃんの両親の反応は当たり前だ。俺の家族が特殊なだけで、何もおかしな反応では無い。嵐ちゃんの時は勝手に落ち込みもしたけど、今日初対面の二人の反応には、これが普通なんだよなとあっさりと理解出来る。だけど、理解出来るのと納得出来るのとではわけが違う。
「俺も嵐ちゃんも勿論男です。でも、俺は性別なんか関係無く結城嵐太郎という人間自体に惚れてるんで。俺の家族も嵐ちゃんの人柄を見た上で俺達の関係を認めてるし、そこにTOKIWAは一切関係ないよ」
つい後半はいつもの喋り口調に戻ってしまったけど、言いたいことは言わせてもらう。
「父さん達の反応は仕方ないと思うけど、俺達は認めて貰うまで諦めるつもりは無いから」
言葉を失ってしまった二人に追い討ちをかけるように嵐ちゃんが言葉を投げかける。この後どんな反応が来るかはわからないけど、俺達はどんな反応でも答えは同じなんだ。それが伝わるように思いを込めて真っ直ぐ視線を逸らさない。
「別にいいんじゃねーの?」
ずっと黙っていた嵐ちゃんのお兄ちゃんが急に声を発したかと思うと、まさかの言葉に俺達の方まで一瞬呆気に取られる。
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