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その決断に後悔はさせない

「嵐太郎は半端な気持ちでそんな事を言う奴じゃないし、俺にはその子が悪い子には見えない。跡取りには俺がいるし、相手が常磐なら世間がもし騒いでも、被害が行くのはうちじゃなくて規模のデカい向こうだし、問題ないだろ」 「問題ないって、二人は男同士でっ」 「その辺の女より可愛いんだしむしろラッキーじゃん」 かなりあっけらかんとしたように言ってのけるお兄ちゃんに俺達まで呆気に取られる。・・・嵐ちゃんのお兄ちゃんなんだかとっても親近感湧くなあ。 「何より俺はその子といて幸せそうに見える嵐太郎を否定する気持ちにはなれない」 それとも父さん達は息子の幸せを否定したいの?そう聞くお兄ちゃんに、嵐ちゃんのパパもママも何か言いたそうにはしているけど、口を開くことは無い。 お兄ちゃんとこちらを何度か交互に見比べたパパがゆっくりと息を吐き、俺へと視線を向けると先程より少し落ち着いた声で話しかけてくる。 「レイラ君の御家族は何と言っていた?」 「うちは元々性別とか気にしないってのもあるけど、みんな嵐ちゃんの事が大好きだから。十六弥くん、えっと、俺の父親も嵐ちゃんの人間性を認めてるし、世間が全て敵になっても俺の家族はみんな味方です」 「常磐十六弥って、レイラ君のお父様はTOKIWAグループの社長なのか・・・」 また少し考えるように黙り込んだ後、次は嵐ちゃんへと視線を移す。 「お前達の関係は世間に簡単に受け入れられるものでは無い。辛いことや後悔する事が、普通よりもきっと多いのは分かっているか?」 「勿論。俺にとってはそれを気にしてこいつと離れる方が辛くて後悔する」 「そうか」 嵐ちゃんの真っ直ぐな言葉を聞き何かを決めたように頷く嵐ちゃんのパパ。堅かった表情がふっと和らぎ、最初の優しい表情に戻る。 「お前達のことを信じよう」 「っありがとう!」 「ありがとう父さん」 つい嬉しさの余り前のめりにお礼を口にする。しかしまだもう一人、返事を聞かないといけない人がいるのを思い出し、もう一度姿勢を但し視線を横へと移す。 途中からこちらを難しい顔で見ていた嵐ちゃんのママがゆっくりと口を開く。 「私も認めるわ。嵐太郎のこんな真剣な姿を見るのは初めてだもの」 「母さん・・・」 「それに私、ゴツい息子も良いけど、可愛い息子も欲しかったのよ」 そうお茶目に言ってのける嵐ちゃんのママの言葉を聞き、思わず嵐ちゃんと抱き合う。こんなにも認めてもらう事が嬉しいとは思っていなかった。 当たり前に認められ、当たり前に応援してくれる人達に囲まれ、初めて受け入れられない不安を感じ、そして受け入れてもらえる事への幸せを感じた。 「父さん、母さん、兄貴も、認めてくれてありがとう」 もう一度嵐ちゃんと一緒にお礼を言う。それに微笑んで答えてくれる嵐ちゃん達の家族はとても素敵だ。 本当はきっと認めたくない気持ちもまだあったはずなのに、嵐ちゃんを、俺達のことを信じてくれた。そんな彼らが今後今日の決断を後悔しないように、間違っていなかったと思えるように、行動していかなくちゃ。 そして今日から、嵐ちゃんの家族は俺にとっても大切な家族だ。もっとお互いの事を知りたいし、知って欲しい。

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