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(嵐太郎視点)
リレーの直後、帰宅する前の十六弥さん達に会った。何故か頭にチョップをくらい怒られ、レイラと少し話した後に十六弥さんが俺の所へ来た。
「嵐太郎、あいつ多分今夜熱出すから面倒よろしくな」
「え、熱ですか?」
「ああ。元々太陽に弱いだろ?こういう晴れた日に一日中外にいることってあんま無いんだけど、そういう日は決まって夜に熱出るんだよ」
ま、明日には復活すると思うから。それだけを言うと亜津弥さんと並び軽く手を上げ帰ってしまった。
そして今。風呂から上がりいつものように甘えるように近づいてきたレイラの身体が、風呂上がりだからとは関係なくかなり熱を持っていることに気づく。本人も何だか身体が熱いと自覚はあるようで、少しぐったりとしている。
とりあえず先程念の為に出しておいた冷蔵庫で冷えたミネラルウォーターを飲ませたあと、ペットボトルを首筋に当ててやる。
「今日は早めに寝るぞ」
「嵐ちゃんも?」
「あぁ、俺も寝る」
熱や体調が悪いとレイラはいつもより更に甘えてくる。しかも高確率で涙腺が緩むことが予測出来るので、出来る限り我儘も聞いてやらなくてはいけない。今の場合、俺は実際はまだまだ眠くないが、一人で寝かせるときっと寂しそうにうるうるしだすので、無理にでも一緒に寝るのが正解。
そうと決まれば一度レイラを抱き上げ、抱っこした状態のまま冷蔵庫から新しいミネラルウォーターと、前に熱を出した時に貰った冷えピタを取り出す。そのまま寝室へ向かい再度水を飲ませ額に冷えピタを貼るとベットに寝かる。その横に横たわりしっかりと布団をかけてやった。
レイラは基本的に寝る時は下着だけの状態だ。そのくせ寒がりなので夏でも布団はしっかりと使う。
すぐに俺にぴったりと寄り添うように引っ付いてきた白い身体を抱き寄せ腕枕をしてやる。身長は平均よりも高く筋肉もあるのに薄っぺらな体と、俺の手にすっぽり収まる小さくて形の良い頭。
重くはないが肩の辺りに感じるこの重みに、俺の左腕はもう朝までこいつの人質だ。熱が上がってきたのか、密着した肌から伝わる先程より更に高い体温と首元にかかる熱い吐息。
「レイラ」
「ん・・・?」
「今日は楽しかったか?」
「ん、すごい楽しかった」
聞かなくても答えは分かっていたがそれでもあえて聞いた。思い出し笑いなのか満足そうに小さく笑う姿が可愛い。
あまり今まで"可愛い"という言葉を使うことは無かったのに、こいつのすることは大体可愛い。
いつの間にかうとうとし始めているレイラの頭を緩く撫でてやると静かな寝息が聞こえてきた。明日は俺も一緒に常磐家に行く予定。まだ眠くは無いが、明日も朝の苦手なこいつを起こす役目を考えると、この時間から一緒に寝てしまうのもたまにはいいかもしれない。
(嵐太郎視点終了)
「ティノーーーー!!!」
昨日の約束通り車で迎えに来てくれた十六弥くんの運転で常磐の家に帰った。普段の豪快な性格からは想像出来ないほど十六弥くんの運転は静かで穏やか。それが小さい時に車酔いの酷かった俺の為だと知っているから、俺は十六弥くんの運転する車に乗るのが好きだ。
「子犬が二匹でじゃれあってんなぁ」
「そうですね」
約三週間ぶりのティノは一回り大きくなって、ダックスらしく胴体が少し伸びた気がした。しきりに尻尾を振り短い脚でジャンプする姿は、可愛すぎて涎が出てきた。危ない危ない。
「ほら、そろそろ中入れよ。踏むぞ」
「いでででっっ踏んでる、もう踏んでる!!」
何でこんなに広い玄関でわざわざ俺を踏むんだ。踏まれた足を擦りながら睨みつけるが、既に十六弥くんは玄関をくぐり家の中。酷い。
「十六弥くんたら酷いね、ティノは苛められてない?」
抱き上げたティノに向かって話しかけるが、伝わるわけもなく不思議そうに首を傾げる姿がまた可愛い。
「ほらほらティノくーん、嵐ちゃんだよー」
「ははっ何の紹介だよ」
笑いながらティノの首元を擽ってあげる嵐ちゃんにご機嫌に尻尾が揺れる。うんうん、ティノも久々の嵐ちゃんで嬉しいんだねー、可愛い。
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