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お次はうさちゃんスリッパ

「で、今日は下駄箱にそのスリッパが入っていたのか」 「これすっごい歩きにくいんだけどー」 今朝嵐ちゃんと登校した際に下駄箱の蓋を開けて俺を出迎えたのは、白のもふもふのスリッパだった。しかもつま先部分に同じく白いうさぎのぬいぐるみがついている。歩きにくさが異常。室内用のシューズが一晩でメルヘンなうさぎに変わった。 「ちょっとハジメちゃんに報告してくる」 「俺もついて行くよ」 凌と一緒に職員室へと向かう。ぺったぺったと歩く度に大きく揺れるつま先のうさぎがかなり歩きづらい。見た目重視のものは実用性に欠けるなぁ。 「ハジメちゃ〜ん」 「お、朝からどうしたー」 職員室の扉を少し開き中にいるハジメちゃんを呼ぶ。朝からだるだる、というか一日中時間帯に関係なくだるだるのハジメちゃん。今日も朝から絶好調にだらし無い格好だ。 「で、昨日は靴下で今日は室内シューズが盗まれた、と」 俺の足元に視線を向けながら腕を組んで考える様子を見せる。盗まれたってゆーか交換されたってゆーか。まあ、俺の私物が消えたのは間違いない。というか、 「え、もしかして俺虐められてる?」 「いや、虐めにしては悪意があるのかどうか、軽視する訳じゃないが、悪戯って方がしっくりくるんだよなぁ・・・」 確かにそうなのだ。実際に物が無くなっているので被害はある。だけど代わりに用意されているものがメルヘンすぎて、ちょっと気が抜けるというか、反応に困る。 「とりあえず私物は出来るだけロッカーに、下駄箱も鍵をしっかり掛けておくこと」 あとは任せとけ、そう言って頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。ホームルームの準備をしてから行くというハジメちゃんとは一度別れ、凌と一緒に教室へ戻ろうとして気づいた。 「予備のシューズ借りるの忘れた・・・」 報告のついでに予備の室内シューズを借りるつもりだったのをすっかり忘れていた。仕方がないので来た時と同じように、つま先のうさぎを揺らしながらぺったぺったと歩く。 「で、結局ずっとそれ履いてるのかよ」 「そ〜、今日移動教室無かったし」 昼になり食堂で一緒になった嵐ちゃんと騎麻、響ちゃん、このくん。そこに俺と要と凌が加わり七人で大きなテーブルを囲む。 「なんか犯人の目星とかついた?」 「それがまだ何も手掛かりが見つかっていないんだ」 「防犯カメラの死角を上手く狙ってるんだよな〜」 風紀委員のこのくんは勿論、騎麻も一緒になって色々探ってくれているけど、なかなか手掛かりになるものが無いらしい。学園内には防犯カメラも設置されている。しかしそれは生徒を監視する目的で付けている訳では無いので、今回の件にはあまり役立っていない。 「でも犯人の目的って何なんだろうね」 「レイラの私物を集めること?」 「集めて何に使うのかは考えたくないなぁ・・・」 使用済みの靴下にシューズ。それを持ち帰ったのか処分したのかはわからないけど、何となく捨てられてはいないと思う。そして盗った物と交換するように置かれていた物から考えても、突発的な行動ではなく準備をしての行動。 基本的に要や凌と行動しているし、体育祭を通して他の学年との交流も増えた。TOKIWAグループの社員の家族も沢山いる学園内で、不審な人物はすぐに誰かの目にとまるはず。なのに手掛かりが無いというのは犯人は一体どんな人間なんだろう。 「レイラ君に何かしらの興味を持っている人には違いないだろうね」 「周りに不審な奴が居ないか注意しとけよ」 「絶対一人にはならないこと!」 「風紀も出来る限りレイラの周りを警戒させておく」 心配性の二年生ズに口々に注意を促される。ぶっちゃけ俺の周りは騎麻やこのくんなど学園のトップと、嵐ちゃんといった頼もしすぎる人達に囲まれているのであまり不安はない。それを言うと危機感が無いと怒られそうだから言わないけど。

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