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ちびっこ
「あおはね、柚木葵だよ!」
ちびっ子は柚木葵というらしい。小学生にしか見えない見た目と中身だけど、れっきとした高校生。くりくりと大きな目にふわふわのミルクティブラウンの髪で、それこそうさぎのように可愛い顔をしている。
「で、どういう状況?」
「知らねぇよ」
いつの間にか嵐ちゃんが連絡したらしく1-Sに姿を現した騎麻とこのくん。こちらを見る三人の目が呆れて見えるのは、多分気のせいじゃないんだろうな。
「これがこの前新しく出来たばっかりのうさちゃんの新商品でね、素材が前のよりも触り心地がいいの!」
今回の盗難事件の犯人だった柚木葵は、何故か俺の膝の上に向かい合うように乗り、レオラビットの良さを熱く語っている。今は今朝取り替える予定だったであろううさちゃんペンケースについての説明中で、ペンケースの中には丁寧にレオラビットのペンや消しゴムなども用意されていた。
その後も止まらないうさちゃん談義は一旦このくんによって止められ、俺の膝から降ろされたあおちゃんはこのくんと騎麻の前に立たされる。身長差が一学年しか変わらないとは思えない。
一通りの事情を聞いた二人によって、悪意があったわけでは無くても、私物を勝手に持っていくのはいけないと説教を受けている。
「レイラ、一応柚木も反省しているから今回は厳重注意と反省文ということにした」
「俺はそれで全然いいよ」
別に元々俺は今回の件について、特に怒っていない。しかもあおちゃんから理由を聞いて更に怒る気など無かった。ちなみにあおちゃんが持っていった俺の靴下とシューズは寮に置いてあるらしい。
「れいらちゃんごめんなさい・・・」
二人がかりで説教されたあおちゃんはしょんぼりとした様子で俺に謝る。その姿が完全に悪戯をして怒られた後の子供のようで思わず笑ってしまう。
「あおちゃん、今度おすすめのうさちゃんグッズ頂戴」
「!どんなのが良い!?」
「寒くなってきたから防寒になるようなものかな〜」
もこもこ靴下とか、そう言うと落ち込んだ様子から一変、笑顔で抱き着いてきたあおちゃん。なんだろうこの気持ち。同い年なのに小さい子供を相手にしているようだ。にこにことこちらを見上げてくるあおちゃんの頭を無意識に撫で回す。
「あおちゃん可愛いね」
「れいらちゃんも可愛いよ?」
「あいつって小動物系に弱いだろ」
「確かにね。ほら、レイラって去年までは自分もちびっ子だったじゃん?だから自分より小さい子にはお兄ちゃんぶりたいというか」
「・・・なるほど」
戯れる俺達を見て嵐ちゃん達がそんなことを言っているとは知らず、俺はあおちゃんを撫で続けた。
徐々に他の生徒も登校してきて賑わってきた頃、嵐ちゃん達は自分達の教室に戻っていき、あおちゃんとも連絡先を交換して別れた。入れ替わるように教室に入ってきた要と凌に、全てが解決したことを話す。
「へぇ〜、犯人は葵君だったのか」
「あの小学生みたいな奴か」
どうやら二人はあおちゃんのことを知っていたらしい。やっぱり初等部から学園にいると大体の顔と名前は一致するみたい。
「葵君ってあの可愛さだから割りと人気あるんだよ」
「まあ中身があれだからみんな保護者感覚だな」
確かに見た目も中身も幼いので、周りが保護者のように世話をしている様子は簡単に想像出来る。普段世話を焼かれている俺ですら、あおちゃんが相手だとしっかりしなきゃと思ってしまうくらいだ。
「あ、でも犯人が葵君ってなると色々納得かも」
「なんで?」
「レオラビットって葵君が作ったキャラクターだから」
「・・・は?」
凌が言うには先程熱く語っていたレオラビットの生みの親が、柚木葵本人なんだとか。中学生の時に考えたレオラビットというキャラクターのグッズを販売し見事に成功。あおちゃんは何とあの子供のような見た目で、若者に人気のブランドの社長ということだ。
なんでさっきあんなにうさちゃんの良さを語っていたのにそれを言わないんだ・・・。
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