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前方不注意は危険です
次の日から始まった文化祭の準備期間。料理の出来る凌は調理担当の生徒達と調理室でメニューの考案、要は教室で内装作りを手伝っている。一から全てを自分達で作り上げていくための準備期間は約二週間。あまり余裕のあるスケジュールではないので、体育祭の時のように放課後も準備を進めるクラスが殆どだ。
俺は足りなくなった材料を取りに、ゆっきーと一緒に在庫が保管してある教室におつかいの途中。
「ペンキは俺が持つからレイちゃんはこっちの布持てね」
「はーい」
メモと照らし合わせながら足りなくなった材料を見つけていく。自然な流れで重い荷物を自分が持ち、軽い物を俺に回してくれるゆっきー。イケメン。別にか弱い女の子でも無いんだけど。まあ、優しさには遠慮なく甘えとこう。楽だし。
「ゆっきーはコスプレ何になるんだろうね」
「あんま目立つのは嫌だな〜恥ずかしいし・・・」
身長も高くて柔らかい雰囲気のゆっきーも俺と同じく当日はウェイター。何のコスプレをするのかは衣装係が決めるらしく、ぶっちゃけウェイターになったメンバーはみんなドキドキだ。一応あまりにも過激なものは生徒会や風紀から禁止されているとはいえ、安心出来ないのは衣装係の中に迅がいるからかな。きっと利益の為に俺達の希望は通らないんだろうなぁ。
「バスケ部も何かやる?」
「やるよ〜、バスケ部は毎年恒例で第二体育館でフリースロー大会だね」
レイちゃんが出たら確実に優勝しちゃうだろうな〜。そう笑うゆっきーだけど、多分実際に出場したら優勝は間違いないだろう。どこからでもシュート出来る俺からしたら、フリースローなんて余裕。百発百中の自信がある。時間があったら遊びに行くと約束して、材料を持って教室への道を戻る。
「れいらちゃーん!」
「やっほ〜あおちゃん」
階段の手前に差し掛かった所でこの数日で見慣れたちびっ子あおちゃんが階段の踊り場から大きく手を振っていた。相変わらず小学生ような小ささだ。俺達の元に来ようとその小さな足を前に踏み出そうとした、その瞬間ーー、
どんっ
「え、」
「!!」
後ろから大きな段ボールを持って歩いてきた生徒があおちゃんに気付かず、ぶつかった。
その衝撃により階段を降りようとしていた小さな体が前に押し出され、その足は階段を踏むことなく宙に投げ出される。
「危ない!!」
隣のゆっきーが叫ぶよりも速く俺は持っていた布を放り投げ、意識するより先に階段へと走っていた。驚いた表情のまま重力に従って、頭から落ちてくるあおちゃんと目が合う。思い切り前に伸ばした手が空中で制服に触れた。
間に合った!
落下してきた体に手が届いた瞬間にその体を腕の中へと引き込む。同時に背中にやってきた強い衝撃に目を瞑って耐えた。
「、ッ、ぃってー・・・」
流石に小さいとはいえ落ちてくる人間を受け止めるのはかなりの重みになる。支えきれずに床に倒れ込んだ俺に周囲の人も何事かと騒ぎ始めた。
「れいらちゃん!!」
「二人共大丈夫!?!?」
「す、すみません!!大丈夫ですか!?!?」
腕の中から聞こえた心配そうな声で、あおちゃんが無事なことを知る。良かった・・・。
近づいてきたゆっきーや、あおちゃんにぶつかった生徒の慌てる声に薄く目を開ける。みんななかなか酷い顔だなぁ。俺の上に乗り上げていたあおちゃんが居なくなり、軽くなった上半身を起こそうとした瞬間、ズキリと突き抜けるような痛みが走った。
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