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結局仰向けにも横向きにも寝れなかった俺は、クッションを敷き詰めた上にうつ伏せで眠った。それでも寝返りを打とうと体をよじる度に、痛みで飛び起きるという最悪の眠り。疲れがとれるどころか確実に寝る前より疲れている。
昨日と同様に嵐ちゃんに手伝ってもらって制服に着替える。無茶をさせない為にと、ガチガチに固められた左肘のギブスが邪魔だけど、まぁ仕方ない。
「・・・あおちゃん」
教室に入ってすぐに目に飛び込んできた光景に思わず固まる。
そこには昨日までのみんなのと同じプラスチックの背もたれの椅子ではなく、見るからに柔らかそうな白いふわふわのクッションに包まれた一人がけのソファが一つ。完全に教室に溶け込めていない。
「これなら背中も痛くないよ!」
自信満々の笑顔のあおちゃんに促されソファに腰を降ろす。確かに程よい硬さのソファとクッションのお陰で、打撲した背中への負担がかなり少ない。座っている姿はどこぞの貴族ですかって感じだけど。
登校してくるクラスメイトの怪我を心配する声と、ソファに対する何とも言えない視線を受けながら授業が始まるのを待つ。過剰なくらいに反応してきた凌と、逆にがっつりこちらを見たのに何も言わない要のどっちが正しい反応なのか。
授業が始まる度に教科担任の先生の微妙な視線を笑って誤魔化しつつ授業は進む。利き腕の左が使えないけど、実は両利きなのでそれ程困らない。レイラくんは万能なのだ。というか元々ノートは取らない派なので、ぶっちゃけなんの問題もない。
「ほらほら、準備期間に怪我して戦力外のお姫様はこっちで衣装の採寸しますよー」
放課後になり、昨日に引き続き教室では文化祭の準備が行われていた。当日の衣装はそれぞれのサイズに合わせて用意するらしく、今は衣装係によって採寸の真っ最中。
「迅が意地悪なんだけど!」
「本当のことだろ」
「っう」
確かに俺はさっきからやることも無くみんなの作業の殆ど応援係状態だったけど。俺だって一緒に準備したいのに!
「まあレイラには当日バリバリ働いて貰うから今は大人しくしとけよ」
そのつもりではあるけど、ニヤリと口角を上げて笑う迅の顔に若干不安が芽生える。なんと言っても前日まで、衣装は着る俺達にすら内緒というのが一番不安だ。
「ちなみにレイラは生徒会と風紀から許可が出るギリギリのラインを狙っていくから」
「・・・お手柔らかにお願いします」
・・・騎麻とこのくんに連絡しといた方がいいかな。
採寸が終わった後は引き続きみんなの応援係にまわり、たまに簡単な作業の手伝いをする。途中で凌達、メニューの試作組の作った試作品メニューの試食を兼ねて、おやつ休憩を挟みながら今日の準備は終わった。
文化祭まで残り十二日。どのクラスもいつもよりも浮き足立っていて賑やかだ。準備の途中の看板や宣伝用のプラカード。自分達のクラスの出し物も楽しみだけど、折角なら他のクラスのも制覇したいなぁ〜。
ちなみに嵐ちゃん達のクラスは"甘味処"で、みんなで着物を着るらしい。絶対似合う。和菓子も出すらしくてそこにも興味がある。楽しみ。
「ほら、腕濡れないように上に上げとけ」
「いだだだだっ」
最低一週間はギブスを外せない俺は今日も嵐ちゃんに身体を洗ってもらっている。そんなに力を入れている訳では無いのに、やっぱりまだ背中を洗われるのは痛い。
「痣になってるな」
「っ!!」
その痣があるらしい辺りを押してきた嵐ちゃんに殺意が芽生えたのは仕方ないと思う。
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