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知らなかった過去
「で、そんなことになったらあの甘えん坊で寂しがり屋のレイラが耐えれるわけもなくて、お手伝いさんの目を盗んで部屋から抜け出したんだよ」
近くにいるとカエラ達もすぐレイラの所に行ってしまうので、その時はレイラだけを本邸から少しだけ離れた別邸に、十六弥さん達が仕事を終えて帰る夕方までの間だけ移していたんだとか。
薬を飲んで寝たばかりだったためほんの僅かな時間だが部屋に一人にしてしまったらしい。その間に目を覚ましてしまったレイラは、カエラとサハラがいない状況に急な孤独感を感じた。で、二人を探すため高熱でふらふらしたまま別邸を抜け出し本邸へと戻ろうとした。
元々本邸と別邸との間は数十メートルしか離れていないので、別に普段ならレイラが一人で移動するのにも問題はない。
「そのほんのすぐの距離なんだけど、間にね、池があるんだよ」
「落ちたんだな」
「そう」
普段なら落ちるようなことはないはずの池に、熱と一人にされた不安で頭の働いていなかったレイラは気付かなかった。凍ってはいなかったが冬の温度の下がりきった池に落ちたレイラは、すぐに音と異変に気づいた使用人によって助けられた。が、元々体調を崩していた上に冷たい水に急に浸かった事により意識を失ったレイラは、その後二日も目を覚まさなかったらしい。
「日本にいた俺達にも連絡が来て、俺もまだ小さかったけど、なんとなくレイラが居なくなっちゃうんじゃないかって感じたよ」
騎麻の言葉に外の寒さとは関係無くひやりと冷や汗が滲むのを感じた。今現在レイラが元気にしていることを知っているから俺はこの話を聞いていられるが、当時側にいた十六弥さん達家族の気持ちは想像することも出来ない。
自分達の子供が、兄弟が目の前から消えようとしているというのはどんなに恐ろしいことか。しかも普段の常盤家を見ているので、どれだけ家族との繋がりを大事にしているかも知っている。
「元から家族の、というか一族のアイドル的存在だったレイラだからね。そんな事があったらみんなが過保護になるのも仕方ないかな〜って」
「なるほどな」
元々の危なっかしさから目を離せないのもあるだろうけど、その先には更にそんなことがあったとは。
「まあ大きくなるにつれて大分体も丈夫になったけど、小さい時の名残で構いたくて仕方ないのもあるんだけどね」
「どっちにしろ危なっかしいのも変わらないしな」
「そうそう」
聞いた内容はなかなか衝撃的だったが、今が元気なので何よりだ。それにこの話を知らないだろう学園の人間がレイラを構い倒しているのを見る限り、結局はあいつ自身の存在自体が人を惹き付けるのに変わりはない。
「それにしても少し吹雪いてきたな」
「山の天気はすぐ変わるからね。酷くなる前に戻ろうか」
何度かコースを往復している間に風が出始め、気付けば雪が舞い始めていた。途中で遭遇した亜津弥さんにも酷くなる前に戻るように声をかけられコテージを目指す。
それにしても今日は早朝に出発してから、夕方になった今までよく動いた。明日も同じく遊び倒すことを考えると、体力のないレイラは後半休んでいて正確だったかもしれない。アドレナリンのまま俺達と滑り続けていたら、確実にエネルギー不足で明日は寝込んでいただろう。
コテージが見えてくる頃には完全に吹雪始め、日も沈んで来たことにより視界も悪い。早めに切り上げていなければ、身動きが取れなくなっていたかもしれない。
「ただいま〜・・・」
「!!」
コテージに着くと何故か入り口付近に先に戻っていた面々が集まっていた。その様子には落ち着きが無く、何かがあったことは明白である。
「騎麻!嵐太郎!お前ら二人だけか!?」
俺達に気づいた十六弥さん声をかけてきた。その様子がいつもの余裕たっぷりの十六弥さんではなく、表情にも口調にも焦りが現れている。
「俺達だけだけど・・・。何があった?」
コテージ内の空気のおかしさに騎麻が何があったのかと尋ねる。その質問への返答を聞いた瞬間、全身から嫌な汗が吹き出るのを感じた。
「レイラと和紗がいない」
(嵐太郎視点終了)
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