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山の天気は変わりやすい

「やっぱ超難関コースは高さが違うね!」 「もぉ〜一回滑ったら戻るからね〜」 「わかってるってレイラ」 コテージでカレンちゃん達に混ざってまったりゆったりしていた所に現れた和紗。今日の締めに超難関コースを滑りたかったのに、一緒に回っていたサハラと風月に終了を言い渡されたらしい。午前から滑っていたら体力自慢の二人も流石に疲れたに違いない。 和紗と愛紗は大人達から一人で滑るのを禁止されているので、サハラ達が終わるなら一緒に終わるしかない。が、それを大人しく聞いた愛紗と違い、元気が有り余っている和紗はどうしてもラストの一本を滑りたいと、まったりしていた俺が捕まった。 そこで約束を守って一人で滑りに行かなかったのは偉いと思う。ただ、夕方になって日が沈み気温も下がったうえに、気づかなかったが軽く吹雪き始めている。リフトに乗った時はまだパラついている程度だった雪も、頂上に着く頃には視界が悪くなる程になっていた。 (これ戻ったら怒られるやつだなぁ〜) 吹雪の中滑るのは危険だ。視界もかなり悪いし、何より今いるのが超難関コース。元々のコース自体が、斜面の角度も凹凸具合も飛び抜けている。 しかも普段無茶苦茶なことばかりする十六弥くんだけど、意外と俺達が無茶をすると怒る。理不尽だとは思わないけど、やっぱり怒られるのは嫌だ。 「って、和紗!先行かないでよ!!」 俺が戻ってからの事を心配している間に和紗がさっさと滑り始めていた。しかも気づいた時にはかなりの小ささにしか見えない程距離が開いている。 「もぉっ!俺が着いてきた意味ないじゃんっ」 ちょっと自由過ぎじゃないかなっ。折角ついてきたのに一人で行ってしまえば意味が無い。流石に心の広い俺だって怒っちゃうぞ!ぷんぷん! 心の中でふざけている間にも距離は開いていく。しかも吹雪もどんどん強くなり視界も先程より奪われている気もする。このままでは本当に危ない。 「くそっまぢで見えない」 狭くなる視界になかなかスピードを出すことも出来ず、それなのに悪化していく天候に更に視界は悪くなる。完全なる悪循環。マスクとゴーグルをしていても叩きつけられる雪の冷たさに体温が下がるのを感じる。寒い。寒過ぎる。スピードを上げて体を動かせれば少しでも暖まるのに、そうするには数メートル先しか見えないこの状況は危なすぎる。 そして自分のことより心配なのが和紗だ。俺よりも大分先を進んでいたので順調に行けば、すでに強くなる吹雪に巻き込まれずに下山出来ているかもしれない。が、逆に同じく吹雪に足止めされているとしたら、早く追いついて合流してあげなくては。普段は面倒見の良い人間に囲まれていて、心配をかける側にいる俺だけど、今は和紗のことが心配で仕方ない。 「っうわ!!」 急に目の前に現れた木にぶつかりかけたのを間一髪で避ける。強くなりすぎた吹雪のせいで今では1メートル先を見るのがやっとの状態。 というか、コース上に流石に木ははえていない。つまり、気づかないうちに真っ直ぐ進んでいたつもりが、コース横の森林に逸れていたようだ。 これはこのまま進んで大丈夫だろうか?この吹雪では無事にコテージに辿り着ける自信が無い。でもこのままここに待機しているというのも無理だ。そんな事をしたら確実に凍え死ぬ、絶対。 只でさえ寒いのに、じっと吹雪が弱まるのを待つという選択肢は真っ先に消えた。ゆっくりでも下に降りていけば少しは吹雪も弱くなっているだろう。 が、この選択が大きなミスだったことはこの後すぐに気付くことになる。

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