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(十六弥視点)

「この馬鹿っ!!!」 コテージ内に響く麻紀の怒鳴り声。レイラと和紗が戻っていないことに気付いてから約20分後、和紗だけがコテージに戻ってきた。まあ、怒鳴りたい気持ちはわからんでもない。 俺達が予想していた通り和紗がレイラを連れ出して外に出たらしい。外に出た時はまだ吹雪初めで、まさかここまでの強さになるとは思っていなかったのだろう。山の天気を舐めていたということだ。 「こんな天気の中外に出て、しかもレイラとはぐれたって?」 「ごめんなさい・・・」 普段のほほんとしてボケボケの麻紀がここまで怒ることはなかなか無い。和紗が無事に戻ってきたことには安心したが、事態は予想より悪いかもしれない。 「麻紀、その辺にしておけ」 「・・・そうだね、俺が今怒っても状況が変わるわけじゃないね」 その通り。今ここでどれだけ喚こうが状況は変わらないのだ。俺達は今、先程より更に吹雪が強まり身動きが取れない。和紗の話では頂上に着いた時にはすでに吹雪いていたが、今ほどではなかったらしい。滑っているうちにどんどん天候は悪化し始め、ただスピードを出して一気に滑り降りたため、視界が奪われる前に下まで降りることが出来たようだ。 が、それは和紗の話だ。一緒に行ったはずのレイラの姿を滑っている最中に和紗は一度も見ていないと言う。きっと状況的に和紗が勝手に飛び出して来たのだろう。 「おい、バ和紗」 「・・・十六弥さんごめんなさい」 「謝るのはもういい。お前らがここを出たのは何時頃だ?」 「多分、17時30分くらい」 今が19時20分を回ったところ。17時30分にここを出てそのままリフトに乗ったのなら18時頃には頂上に着いたはず。和紗が戻ってきてからは約30分、後を追っていればゆっくり滑っても確実に下に着いている。 それでも今現在コテージやゲレンデ周辺にいるスタッフからもレイラが戻ってきたという連絡が無い。もしかするとこの吹雪だ、コースを外れて道に迷っている可能性が高い。 「亜津、この周辺の地図はあるか」 「これだ」 既に地図を用意していた亜津がテーブルにそれを広げる。滑っていても思ったが、超難関コースの周りは少しコースをズレると森林に迷い込む。視界に問題が無ければ入ってもすぐに抜け出せるが、この天気、もし迷い込むと出口が分からなくなることもあるだろう。 そして、地図上に見つけたあるものに嫌な記憶が蘇る。 「亜津、ここに向かうぞ」 「・・・わかった」 何故そこに向かうかなんて無駄な質問はない。俺の勘は誰よりも当たるのだから。しかし、今回はその勘も外れてほしい。何故なら俺達が向かおうとしているのはーー、 「その池ならモービルで20分くらいで着くはずだ」 池とレイラで思い出すのはあの事件。何で毎日見てる庭の池に落ちるんだよ、とか、熱があるなら大人しく寝とけ、とかレイラに言いたい小言は山ほどあった。が、眠り続けるあいつを見た時にはそんなことを言う余裕なんて無かった。 それからも冬に体調を崩すことの多かったレイラは、室内にいる事が多かったせいか寒さが苦手だ。今もこんな天気と気温の中にいるなんて、どこかで凍えているに違いない。早く迎えに行かなくてはーーー。 (十六弥視点終了)

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