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らんたろー

「解離性健忘だね。一時的な記憶障害だ」 俺が目を覚ました場所からモービルに乗って麓のコテージに移動した。そこで待ち構えていた麻紀くんに様々な質問をされた結果が、これ。 移動中に俺を抱いたまま十六弥くんに説明された内容だと、俺は家族旅行で来たここで、吹雪にあって遭難していたらしい。そして十六弥くんと亜津弥くんの先程の会話に出てきた"らんたろー"とは、俺の通う高校での同室者であり、俺の恋人だと言う。 え、ていうか俺高校に通ってるの?驚きだ。 「レイラ、ちなみに今何歳だっけ?」 「13歳でしょ?」 麻紀くんの最後の質問に答えた瞬間、俺を囲んでいた大人達の表情が変わった。 「3年分の記憶が飛んでいるのか・・・」 そこからの麻紀くんの説明によると、まず、俺は今16歳らしい。遭難した時の状況と昔、俺が池に落ちて意識が戻らなかった時の状況が似ていて、何らかの防衛反応としてその前後の記憶に障害が出た。というのがあくまで仮説ではあるけど医者としての麻紀くんの意見だ。 「16歳・・・どうりでみんなの見た目が大きくなってると思った」 今は状況把握のために周りには大人達しか居ないけど、コテージに入った時に俺を取り囲むように集まったカエラ達や騎麻、真斗達の姿が、みんな俺の知る姿よりも大分大人びていたことに驚いた。 そしてその中にいた一人だけ見覚えのない人が"らんたろー"だろう。知らないはずの人が俺の事をすごく心配してくれていて、更に俺の姿を見て安心した表情をする。それが不思議で、それなのにとても嬉しかった。 「記憶はどれくらいで戻るんだ?」 「わからない。明日には戻っているかもしれないし、何年も戻らないかもしれない」 十六弥くんと麻紀くんの会話を聞いても、特に焦りや不安は無かった。だって家族のことはちゃんと覚えている。それに日常生活にも支障はない。それなら大丈夫なんじゃないかな? でも、さっき見たらんたろーの顔を思い出す。 あの一瞬見た表情だけでも、らんたろーにとって俺がどんな存在なのかを垣間見せられた気がする。そしてそれが俺にとっても同じ存在なのだとしたら、その事を忘れてしまったというのは、どんなに悲しいことなのか。 「レイラ!!」 「大丈夫なのか!?怪我とかは!?」 「レイラぁ〜ごめんなさぁ〜い」 麻紀くんがみんなに説明をしてくれている間に、俺は十六弥くんに連れられて風呂に入った。その時鏡で見た自分の姿が、あまりに違いすぎて一瞬信じられらなかった。だって俺、身長伸びすぎ!!自分で言うのもなんだけど、俺はチビだった。それがこんなに大きくなるなんて!感動だ。 で、お風呂から出ると同時にみんなに囲まれた。そして俺が遭難したきっかけとも言える和紗の半泣きの状態でのタックルはなかなか効いた。強く俺にしがみついた状態で謝る和紗の頭を撫でてやる。 「よくわかんないけど、俺も和紗も無事で良かったね」 「れ〜い〜ら〜〜〜」 俺の言葉を聞いて更に強くしがみついてくる和紗。ちょっと、流石に痛いぞ。この馬鹿力め。そして、やっぱり俺の知っている姿より大きくなったみんなの姿に違和感。 「レイラ、無事で良かった」 「!」 突然掛けられた言葉と共に厚い胸元に引き寄せられた。先程も聞いた声なので誰なのかは分かる。ただその知らないはずの人から香る、ほんのりとした柑橘系の香りが、何故か酷く懐かしく、とても安心するのはなんでだろう。

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