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羞恥心とは

「本当に大丈夫?」 「大丈夫!折角の家族旅行なのに引きこもったまま終わるとか勿体ないし!」 次の日、相変わらず記憶は戻っていないけど、当初の予定通り午前中はゲレンデで遊び、午後からは近くの温泉施設に行くことにした。熱も朝には完全に下がっていて、麻紀くんからも無理をしないならと許可が出たので問題ない。 「超難関コース行こう!!」 「いやいやいや!それは辞めておけよ!!」 「レイラ、上級者コースにしておこう」 「えぇぇーっ」 みんなは昨日滑ったかもしれないけど、俺はそれを覚えていない。だったら滑っておきたいじゃん。それでも一緒にいるカエラやサハラは心配らしく、どうしても行かせてくれない。 「別にいいんじゃないか」 「嵐ちゃん!」 そこでずっと黙っていた嵐ちゃんがまさかの俺に賛同してくれた。ぶっちゃけ俺が記憶を無くしたことで一番被害を受けている嵐ちゃんが、まさか賛同するとは思っていなかったので、みんな驚いている。 「別にこの天気なら問題ないだろ」 そうそう。嵐ちゃんの言う通り今の天気は晴天ですよ!結局みんなも渋々ながら一緒にリフトへと乗り込む。どうせなら簡単なコースより難しいコースの方が楽しいに決まっている。 「あいつ昨日より元気じゃないか?」 「朝父さんが全身にカイロ貼ってたからじゃないかな」 その通り。亜津弥くんが外に出る前に貼れるだけのカイロを全身に貼ってくれたおかげで、寒いには寒いけど全身がぽかぽかしている。 「でもはしゃぎ過ぎは厳禁な」 「あうちっ」 今滑り降りたばかりの超難関コースへともう一度登るためリフトに向かおうとした所を、嵐ちゃんにフードを掴まれて止められる。今ちょっと首がやられそうだったぞ。 「ほら、昼までまだ時間があるんだ。エネルギー切れる前にこれでも食っとけ」 「!ありがとう〜」 そう言って差し出されたのは俺の好きなチョコレート。そう言えば少しお腹が空いてきている。俺は空腹だと血糖値が下がりすぎて貧血で倒れることがあるから、定期的なおやつが重要だ。 ナイスなタイミングで手渡されたおやつを口に頬張りながら思った。 嵐ちゃん、俺の事めっちゃわかってる。 今朝の朝の苦手な俺の起こし方も手慣れていたし、さっきのやり取りもそうだし、何より俺の事をよく見てくれている。 「嵐ちゃん俺の事めっちゃ好きでしょ」 「気づいたか?」 にやにやした顔をしながらチョコをもう一つ俺の口へと放り込む。その色気のあり過ぎる表情も、その奥にある優しさに気付くと何だか擽ったい。 ただ、 「チョコついてるぞ」 「!!」 急にどアップに迫ってきたイケメンがちゅっと俺の唇を掠めていく。ぶっちゃけこんな寒さの中カチカチに固まったチョコがついている筈なんてない! 「嵐ちゃん!!」 「なんだ照れてるのか?」 「馬鹿ぁーっ!!」 ちょっとでも気を抜くとすぐにこうしてキスをしてくる。普段から挨拶としてキスをする俺達だけど、流石に急にされると驚くし、恥ずかしい。家族じゃないのに嫌な気持ちは、ない。 「照れるなよレイラ、お前らのそれはいつも通りだ」 「えっ!!!」 十六弥くんの言葉に思わず絶句した。・・・どうやら16歳の俺には羞恥心が無いらしい。

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