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わかってほしい
「実際は重ね着する服なんだけど攻めてるよね」
いつも通り写真は俺の顔がはっきり分からない角度で切られている。嵐ちゃんはよくそれが俺だと気付いたな~。
「これはレイラがやらないと駄目だったのか?」
「・・・どういうこと?」
「他にもモデルがいるのに、この際どい写真はお前じゃないといけないのか?」
顔を写さないのに。そう言う嵐ちゃんの顔が何だか少し険しくて、怒っているのがわかる。まあ確かに仕事とは言え、他の誰かと絡んでいる姿を見るのは面白くないかもしれない。でも、
「確かに顔は写さないけど、これは俺に来た依頼だから。カメラマンが俺が良いと思ったなら、俺がやるよ」
「もっと際どい絡みでもか?」
「そう指示があるならね」
嵐ちゃんが言いたいことが何かはなんとなくわかる。つまり、顔が写らないのならやる内容は選べということだろう。
「嵐ちゃん、これは撮影だから別に嵐ちゃんが気にすることは何も無いよ」
撮影をする相手は俺の中でも信頼している人達ばかりだ。そして今まで撮影の中で築いてきた人間関係でもある。カメラマンもそうだし、モデル仲間もスタイリストもヘアメイクもそう。
だからこそ、別に今回のような絡みがあろうと、もしくはヌードの撮影だろうと、俺はやる。それがカメラマンがイメージする絵であるなら、それを表現するのがモデルの役割だ。
確かに今の俺は顔を出さない。それでも撮影のモデルとして俺を使いたいというのは、顔が写らない状態でもモデルとしての俺を少なからず認めて貰っているということ。現に嵐ちゃんだって顔が写っていない状態でも、それが俺だと気付いたじゃないか。
「俺が嫌だと言ってもやるか?」
「やる」
即答で答えた俺に対して嵐ちゃんが怒っているような、呆れたような顔になる。それでも、残念だけど今回の事では俺は引かない。俺には俺のプライドがあるんだから。
「で、嵐と喧嘩してここに家出してきたのか」
「俺別に悪いことしてないし!!」
さっきのやり取りのあと、結局最後まで嵐ちゃんは今回の写真について良い反応が返ってこなかった。その事に怒った俺は今、三つ隣の騎麻の部屋に家出中。
「まあ、レイラの気持ちも嵐の気持ちもわかるんだよな~」
参ったなと、困った表情の騎麻がクッションを抱えてソファに転がる俺の頭を撫でる。
「レイラが怒るのも珍しいけど嵐が怒ることも珍しいし・・・
でも、喧嘩してそんな落ち込むならもう一回ちゃんと嵐と話したら?」
俺だって別に嵐ちゃんの気持ちが分からないわけじゃない。むしろ、嵐ちゃんが俺の知らない誰かと同じような写真を撮っていたら、嫌だ。間違いなく嫉妬する。
でも、あくまで服の撮影だし!!
それでも先程の嵐ちゃんの様子を思い出すと、自然と目頭が熱くなってくる。俺に対してあんな表情を向けられるのは初めてだ。
「あぁ~もうっ、こっちおいで」
一度こぼれ落ちると留まる事無く次々と溢れ出してくる涙。無言でドバドバと涙を流す俺を騎麻が慌てて抱き寄せる。
嵐ちゃんに分かってもらえないのはすごく悲しい。
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