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もう怒ってない?

「喧嘩初体験のレイラに任せるとなかなか嵐と話せなそうだから呼んどいた」 「悪いな」 声がしたと思ったらいつの間にか嵐ちゃんが扉の所に立っていた。そのまま長い足で遠慮なく生徒会室を真ん中を横切って俺の元へ来る。 突然のことでまだ心構えの出来ていなかった俺は本能的に逃げようと立ち上がろうとした。が、 「逃げるんじゃねぇよ」 「っ、嵐ちゃん」 それより先に嵐ちゃんに捕まり、そのまま抱き込まれる。どうしたら良いか分からず、それでも大好きな温もりにまたも涙が溢れそうになる。 しかし、昨日の怒った表情の嵐ちゃんが頭を過ぎり、全身にぴきりと力が入った。やっぱりまだ怒っているのだろうか。 「ら、嵐ちゃん、いつから聞いてた?」 「・・・カレンさんが家を飛び出したってとこくらいから」 という事は話のほとんどを聞いていたということか。何で気づかなかった俺。 「レイラ、俺はお前の夢の邪魔をするつもりは無い」 「!、」 「でも、やっぱり知らない所でお前がああいう事をしているのは嫌だ」 初めの嵐ちゃんの言葉に一瞬わかって貰えたのかと思い、喜びかけた瞬間にまた突き落とされた気持ちになる。やっぱり嵐ちゃんはまだ怒っているし、俺のやり方を理解してくれていない・・・、そう思うと嵐ちゃんに抱き締められたこの状態が酷く辛く感じた。 「あれは、あくまで仕事だからっ、」 「わかっている」 「っ、だったら・・・」 「それが今のお前が成長するためにも、夢のためにも必要なことはわかった。だから、最大の妥協案として、せめて先に、お前の口から知らせてくれ」 後から思わぬ形で知るのは嫌だ。そう言う嵐ちゃんの声がさっきまでの硬さのある物ではなく、優しく耳を撫でるような声質に変わったことで、ギリギリで止めていた涙が決壊した。 「ちゃんという、言うから、もう怒ってない?」 「ああ」 良かった。嵐ちゃんがもう怒っていないということも、俺の夢を理解してくれたことも、全て良かった。 「あ~また泣いてる」 「レイラ君干からびる前に、ほら、これ飲んで」 嵐ちゃんに抱き込まれていたから忘れていたけど、周りには生徒会のみんながいるんだった。騎麻にティッシュで顔を拭かれ、響ちゃんには甘いミルクティを渡される。まみちゃんはほっとした感じだし、のいちゃんとケイには優しく微笑まれて・・・ってなんだか今更だけど恥ずかしい。 「ほらほら今更恥ずかしがらなくて良いから一旦嵐から離れな。嵐の服がレイラの鼻水だらけになるから」 「あ、ごめん」 謝ったけど既に嵐ちゃんの服の首周りは俺の涙でしっとりしていた。決して鼻水ではなく涙だと思う。 顔を上げたことによってやっとしっかりと見た嵐ちゃんの顔が、少し目が赤くクマがあることに気付いた。 「嵐ちゃん寝不足?」 「・・・お前はよく寝れたみたいだな」 「俺のおかげかな?」 騎麻がちょっと悪い顔で嵐ちゃんにコーヒーの入ったカップを渡す。それを受け取った嵐ちゃんが何か言いたげに騎麻を睨むけど、何も言わずにソファへと座った。 「俺までお前と一緒じゃないと眠れなくなったらどうしてくれるんだ」 俺が毎日一緒に寝るよ?

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