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小さな期待
「で、君はレイラが好きだけど嵐と一緒にいる時のレイラがもっと好きってこと?」
「そうです可愛さ倍増です」
「・・・そして、レイラがより可愛くなるから嵐も好きって?」
「はい」
一連の流れを聞いた騎麻が事情聴取をする感じで話を纏めていく。内容が内容なだけに顔がちょっと引きつっているのが見える。多分俺も嵐ちゃんも同じ顔してる。
「・・・・・・・・・馬鹿?」
普段人を悪く言うことが無い騎麻から出た言葉に、多分本人以外みんな同感。人の気持ちを否定するつもりは無いけど、ちょっと、つか大分、この人変わってる。
「とりあえずこの話は一旦終わり。続きはマラソン大会が終わってからね」
そういや今はまだマラソン大会の真っ只中だった。大分長い時間足を止めていたから一年生の大半はもうゴールしてしまったかもしれない。騎麻と嵐ちゃんも折角上位にいたはずなのに。
「別に順位とか狙ってないからいーんだよ」
「とりあえずレイラは完走目指して」
騎麻が促し先程の生徒を先にマラソンへと再開させ、俺に声を掛けて騎麻と嵐ちゃんも走り始める。十分に休憩を取った俺もレースに戻るけど、みんなとは体力が違うからスピードは抑え気味。どんどん離れていく背中が寂しいな〜。
「レイラ君お疲れーーー!!!」
なんとかみんなよりも大幅に遅れをとりつつも完走することに成功した俺。ゴールで、すでに走り終えてまったりしてただろう凌と要に出迎えられた。
「無事に生還出来たな」
「マラソンで死にたくはないけど、ほんと死にそー・・・」
要が渡してくれたタオルで汗を適当に拭きつつゴールに用意されていたスポーツドリンクを飲んで一息。あ〜冬なのに汗だく。今は熱いけど、すぐに冷えるから早く着替えたい。
「にしても予想より遅かったな。山道はキツかったか?」
「ん〜実はさ〜」
6km地点での出来事を二人に話す。ざっくりサラッと。呆れ顔の要の反応は予想通りだとして、意外にも凌が大人しい。いつもなら鼻息荒く飛びついてくるのに、今は何かを考えるように難しい顔をしている。そして、
「ちょっと待って、それって何攻めになるんだろう・・・?」
あ、いつも通りだった。
自慢じゃないけど、今までに告白は数え切れない程された。相手は老若男女問わず。まあ日本に来てからは殆ど学園の生徒が相手なんだけど。
学園では殆どの人に嵐ちゃんとの関係が知られているから、告白と言っても“付き合って!”という内容はあまりない。想いだけは伝えたいというパターンや、諦めるために、というパターンが多かったりする。
ぶっちゃけ俺は好きな相手に想いを伝えるだけや、諦めるといった選択肢を持たないタイプの人間だ。だから告白をされる度になんとも言えないもやもやが溜まっていく。勿論俺に嵐ちゃんと別れるという選択肢は無いから、付き合って欲しいと言われても困るんだけど・・・。
想いだけ伝えられたり自己完結のために告白されるのって反応に困るし、ちょっとしんどいよね。初めから良い答えを求めてないって言っても、結果的にはその人の気持ちに答えれないのは一緒だし。
それに多分だけど、みんな心の何処かでは“もしかしたら・・・”って少なからず思ってると思うんだよね。俺だったら思うもん。だからその気持ちを踏みにじるみたいでやっぱり罪悪感のようなものがある。
だからどうしたら良いのか困るんだよね、今回みたいな異例なパターンの告白とかも・・・。だってほら、
「レイラ君お疲れ様!!」
飼い主を見つけて嬉しくて仕方ないって感じに尻尾をぶんぶん振り回してる幻覚すら見える。目の前にいるさっきぶりの生徒に思わず顔が引き攣った。
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