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それぞれを想って

勿体ぶることはせず、せーので取り出したのは小さな箱。その時点でお互いの予想が当たっていたことがわかり、にやにやが止まらない。 お互いの箱から出てきたのは銀色に輝く、シルバーリング。 「ほら!絶対嵐ちゃんも指輪だと思った!!」 「俺も。つかレイラ、お前隠す気あったか?」 「ないない!」 そう、俺達がプレゼントに選んだのはシルバーリングだった。初めに思いついたのがどちらかかは分からないけど、「あ、指輪をあげよう」そう思った時にスケッチブックを手に指輪のデザインを考え始めた俺。その横で嵐ちゃんは俺の手に嵌っている指輪のデザインや、アクセサリーケースの中のデザインを観察していたのも知っている。 それから別にお互い指輪をあげるという話をした訳ではないけど、絶対にそうだと確信していた。だってその証拠に二人とも相手の分の指輪しか用意していない。それは自分も貰えるとわかっていたからの行動だ。 「ペアで用意したら嵌める指に困っちゃうからね」 「だな」 笑いながら箱から出した指輪を嵐ちゃんの、勿論左の薬指へと嵌める。同じように俺へと指輪を嵌める嵐ちゃん。サイズがぴったりすぎる事にもつい笑いが込み上げて二人同時に吹き出した。 「ぴったりだね!」 「そりゃ本人の指使って測ったから間違いないだろ」 「嵐ちゃんなんて自分からサイズ言ってきたし!」 そう、嵐ちゃんは俺の指のサイズを堂々と測っていたのだ。その時にはお互いのプレゼントに既に気づいていたのでその行動に特に突っ込むことはしなかった。なんなら俺も嵐ちゃんのサイズを測ろうと思ったら、嵐ちゃんに至っては自己申告してきたのだ。 「手間を省いてやろうかと思って先に測ってた」 「嵐ちゃんの方が隠す気ないよね」 しかもしっかり左の薬指のサイズを測っているというのも可笑しくて、あの時は笑いを耐えるのに必死だった。 改めて自分の指に嵌ったそれを眺めると、そこにあるのがとてもしっくりくる、シンプルなのに存在感のある輝きをしている。 「これ嵐ちゃんがデザインしたの?」 「そう。レイラのデザインを覗き見しながらアレンジした」 「ふふ、だって本当のペアリングみたいだもん」 別々に用意したはずなのに違和感なく、元々ペアリングとして用意したかのように似通った二つ。嵐ちゃんが言うように俺のデザインを元に作ったから雰囲気が似てるのだろう。それでも、嵐ちゃんの大きくてしっかりした手に合わせた俺のデザインと、俺のあまり節の目立たない手に合わせた嵐ちゃんのデザイン。どちらも互いにしっくりくる。 これは別に結婚指輪なんかじゃない。ただ、今後も、俺達が俺達でいることの誓いのようなもの。元々俺達の関係に名前なんて必要ではないのだから。 「嵐ちゃん」 名前を呼ぶと向かいの席に座っていた嵐ちゃんがゆっくりと近づいてくる。そのまま抱き締め、そっと目の前の唇に口付けた。そっと触れるように合わせたそれが、唇の角度を変えるごとにどんどん深くなる。 「ん、、」 「今日は折角だから、ゆっくりしようぜ」 そう言い抱きしめた俺の体を抱えるとそのままゆっくりとベッドのある寝室へと移動する。目の前にある首筋から思い切り香りを吸い込むと、鼻いっぱいに僅かな柑橘が広がった。 「擽ったいな」 「んふふ」 スイートルームのベッドはゆったりとしていて綺麗。二人で寝転がっても余裕のそこで下着を残して裸になる。唇を合わせつつ、手で全身をやわやわと撫でていく。いつもの快感を与えるような動きでは無く、ただ優しく、マッサージするかのような動きに体の力が抜けていくのがわかる。

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