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新たな提案
「とりあえず、始業式お疲れ」
放課後になり生徒会室に向かうと今日もみんな既に揃っていた。
「ぶっつけ本番だったけど、なかなかいい挨拶だったよ?」
「久々に緊張しちゃった」
俺ってあんまり普段緊張することない。肝が座っているとかというよりは、多分何でも楽しくなっちゃうから。でも今日の始業式でみんなの反応が良かったのは嬉しかったな。やっぱり天羽学園の生徒はノリが良い。
TOKIWAグループの子供が多くいるから俺への認知度があるのもノリの良さの一つかもしれない。でも、天羽学園の生徒は優秀だ。それは間違いない。だからこそ、納得行かない事にはノリだけで同意しないだろうし、従わないはず。
「みんなの前で言っちゃったからね、これから大変になるなぁ」
そう言いつつもどうしても口角が上がってしまう。楽しみだなぁ。この学園が今より楽しくなるなんて。
「まずは俺達での最初の仕事、新入生歓迎会だよ」
騎麻の言葉にみんなが注目する。俺達での初めての仕事。
「去年までの新歓の資料はさっきみんなに配ったよね。それを元に変更すべき点やもしくは新しい案を出してほしい」
去年の新入生歓迎会では鬼ごっこをした。その時の記憶を呼び起こしながら考える。鬼ごっこ、キング、ナイト、学食のスペシャルメニュー、お願いを聞いてもらえる権利、食事会、、、
「つか、高校生で鬼ごっこって・・・」
隣に座っていた真斗がボソリと呟いた。俺は去年が初めての学校で浮かれていたから何も思わなかったけど、普通に考えて何故鬼ごっこなんだろう。確か、去年騎麻は校内探索と上級生との交流を目的にやり始めたのがきっかけだったらしいと言っていた。
でも、実際は追いかけ回されているだけで交流も何も無かった。むしろ大勢に追いかけられて恐怖すら感じたくらいだ。そんな中で校内探索をする余裕がある生徒がどのくらいいるというのだろう。
「よし、今年は鬼ごっこ止めようよ」
「え、そんな簡単に今までの恒例止めちゃっていいんですか?」
俺の鬼ごっこ止めよう宣言に鷹が驚いたような声をあげる。え、逆に鬼ごっこしたい?
「だって去年やって思ったけど、鬼ごっこ自体は意外と楽しかったよ?景品にもみんな盛り上がってたし。でも、実際のとこ、景品以外のメリットが少な過ぎる」
ぶっちゃけスタートしてすぐに捕まってしまえばその後の楽しみはほぼゼロ。追う側には元々ほとんどメリットが無い。それに気になることがもう一つ。
「渚くんみたいな子とか、可愛いから色んな人が群がってくるよ」
「!!」
今の学園内は平和だ。でも、去年俺はあまり思い出したくない経験もした。沢山の人が集まれば、全ての人間が100%善人というのは無理な話かもしれない。今の天羽学園がどんなにいい所だと思っていても、俺が未だに一人での行動を禁止されているのがその証拠。
俺は元気な時であればそれなりに自分の身は自分で守れる。が、そうじゃない人も勿論いる。過保護になるわけではないけど、他のイベントと比べ入学して数週間で行うには、少し不安がある内容なのだ。
「大人数で追いかけられるの、やだ」
ずっと黙っていた渚くんが小さな声で言った。想像させてしまったのか若干涙目だ。何だか申し訳ない。ハイパー人見知りの渚くんの性格からして、慣れない不特定多数の人間に追われるのは相当の恐怖なのだろう。
「そうだね、鬼ごっこは止めよう。俺も鬼ごっこは去年を最後にしようと思ってたし」
他のみんなも賛成してくれ、今年の新入生歓迎会は違う内容に変更することが決まった。
ちなみに俺が怖がらせてしまった渚くんのアフターケアは響ちゃんがしてくれた。俺はまだお触りが許されていないから。俺も泣きそう。
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