267 / 311
そして夏が終わる
完全に日が沈み、辺りは提灯の灯りがぼんやりと光るのみ。
ひゅるる〜〜〜という音と共に暗闇を小さな光が上っていく。
ドォォオンッ パラパラパラ
「うわっでっかい!」
「綺麗だな」
「すごい火の粉飛んでくるな・・・燃えそう」
夜空一面を埋め尽くすような大輪の花火に感嘆する。花火が上がる度にドォォオンと心臓に響くような大きな重低音が響く。パラパラと降ってくる火の粉は確かにこのまま地上まで落ちて来そうで、少し怖いような気さえする。
「嵐ちゃん見て見て」
「どうした?」
隣にいる嵐ちゃんに顔を寄せて耳元で小さく話しかける。不思議そうな顔の嵐ちゃんに少し前の位置で花火を見ている騎麻と真斗を指差す。
「意外だな」
「可愛いでしょ〜」
指差す先では打ち上がる花火のドォォオンと響く音に合わせて、小さく、本当に小さくビクッと体を震わせる真斗。別に怖がりでもビビりでもないのに、昔から大きな音だけは苦手で無意識に体が反応するらしい。可愛いな〜。
多分今も本人は体がビクついているのも気づいていない。そして隣にいる騎麻は真斗の可愛さに悶えている。間違いない。
「もう夏休みも終わるね」
「まだ暑い日は続きそうだけどな」
確かに。夏休みが終われば二学期はお祭り尽くし。忙しくなるのは必須だ。しかも生徒会も本格的に引き継ぎとなり、更に忙しくなるだろう。そしてなにより、嵐ちゃんと過ごせる学園生活の残りがまた少し短くなる。
嵐ちゃん達が卒業するまで、約半年。
「嵐ちゃん卒業したらどうするの?」
「とりあえずは大学進学だな」
きっと半年なんてあっという間に過ぎる。そしてそこからの一年は、嵐ちゃんのいない学園生活を送ることになる。
日本に来て、天羽学園に来て常にそばに居た存在。それが半年後にはいないと思うとなんだか変な感じ。別に会えなくなる訳でもないし、きっと休みの度に会うんだろうけど。それでもなんだかやっぱり変な感じ。
「何、寂しいのか?」
「ん〜まだ寂しくはないかな。っていうか半年後ってなるとあんま実感ないかも」
「まあな」
でも、多分これからどんどん実感していくんだろう。今まで歳の差を考えたことはほとんどなかったけど、学校に通い始めてわかった。学生時代の一年とは思っているよりかなり大きい。
「運動会も学園祭も、いっぱい思い出作ろうね」
「そうだな」
「俺が嵐ちゃん達の最後の高校生活を最高に楽しくしてあげるから」
その後もしばらくの間みんなで花火を眺めた。最後の花火が打ち上がりパラパラと消えていくのと一緒に俺の二度目の夏休みも終わりを告げる。
「さ、帰りますか〜」
花火も終わり周囲の人もまばらになってきた。楽しい時間はあっという間だな。明日には学園に戻り、明後日の始業式の準備がある。
まずはとりあえずお家に帰りますか。でも俺はさっき一つ問題に気づいてしまった。割りと重要な問題に。
「足痛い〜〜〜靴擦れしたぁ〜〜〜」
「うわ、痛そ」
「俺もちょっとしてる」
「やっぱ履きなれて無いからな」
痛い。めっちゃ痛い〜。さっき芝生の上に座っていた時にチクチクした感じで気づいた。鼻緒の部分が擦れてぺろーんと皮が向けていたのだ。気づいてしまったらそりゃもう痛さがドバっときた。痛いの嫌い。
残念ながら俺達の中に絆創膏を常備しているような人間はいない。家までは徒歩で20分程。我慢出来る気がしない。
裸足で帰ろうかとも思ったけど傷口に砂がつくと痛いのとバイ菌が入る可能性もある。何かを踏んでも危ない。
ということで、おんぶでお願いします。
ともだちにシェアしよう!