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快晴、体育祭日和
「・・・ーこれまでの練習の成果が存分に発揮され、みんなの輝く姿をこうして見られることを嬉しく思います。今日は天気も体育祭日和ですね。水分補給を忘れず最後まで頑張ってください」
理事長である和臣おじさんの挨拶が終わった。にこにこと壇上から生徒を見下ろすおじさんも、今日はいつものスーツ姿と違って動きやすそうなジャージ姿。それでも普段のダンディーさを失わないとはなかなかやるなぁ。
そしてほとんど見えないけど、おじさんの履いているスニーカーの靴紐が赤と白のボーダーになっている。それがチームには属していないが一緒に体育祭に参加してくれているのが伝わり、お茶目で可愛い。
生徒も今日はチーム別のカラーTシャツを着ている。赤組の俺達は勿論赤いTシャツで、胸元には顔だけをくり抜かれたこのくんの顔がプリントされている。そして白組は白地に同じく胸元に騎麻の顔がプリントされていた。
「あははっ、大将Tシャツやば!このくんと騎麻だらけ!!」
「自分で自分の顔のTシャツ着てるのも、なんだかおかしいね」
「悠仁、ちょっとTシャツと同じ顔してよ」
赤組のテントはどこを見てもこのくんと目が合う。その光景がなんだか面白い。すぐ近くにいる本物のこのくんはクラスメイトにいじられ引き攣った顔をしている。
「・・・なんでこんなデザインに、」
「え〜面白いかなって?」
そうです。このTシャツのデザインは俺の仕業です。だってただの無地じゃつまらないかなって。騎麻はノリノリでTシャツに使う写真を選んでいた。このくんは残念ながらあまり気に入ってないようだ。折角俺がこのくんのかっこいい写真選んだのに。
開会式、準備運動が終わりいよいよ初めの種目である徒競走が始まろうとしている。みんなの気分を盛り上げるようなアップテンポの音楽が会場内に響いている。
「この雰囲気だけですでに楽しい〜」
「はしゃいでぶっ倒れるなよ」
しかも今年は嵐ちゃんも同じチーム。はしゃがない方が無理というものだ。
「見て見て!今朝十六弥くんが送ってくれた写真!ティノもチームTシャツ着てる〜!」
「・・・楽しそうだな」
今年も体育祭のために帰国中の十六弥くんとカレンちゃん。犬用に作って貰ったチームTシャツでティノも本家から応援してくれている。可愛すぎて顔のにやけが止まらない。何この可愛さ。
俺がはしゃいでいる間にも競技は進んでいて、徒競走も終盤に差し掛かっている。次の種目は借り人競走。つまり俺の出番なのでそろそろ移動しておかなくては。同じ種目に出るメンバーで連れ立って招集場所に向かう。
「レイラ君今年もお姫様抱っこに期待だな〜」
「そんなこと言ってたら今年はよしのがお姫様抱っこになるかもよ」
「えぇ〜そん時は俺も結城先輩が相手がいいなぁ〜」
よしのは相変わらず俺と嵐ちゃんのことが大好きで隙あらば口説いてくる。発言がたまに変態的な時もあるけど、元々のゆるさと柔らかい雰囲気のせいか嫌ではない。しかも気づけば嵐ちゃんとも仲の良い先輩後輩関係を築いていたりする。本人曰く懐に入り込んでそのままベッドにも入り込む作戦だとか。本気か冗談か分かりずらい。
「今年はね、うちの親も来てるんだ〜初等部ぶりに。張り切ってコケたりしないといいけど」
「うちの親も。去年久々に来たら何か楽しかったらしくてさ。今年も来てる」
入場口の隣は今年も保護者席が設けられている。そこに親を見つけては少し気恥しそうにする周りの生徒達。興味なさげな風に装っていても親がわざわざ山の上まで来てくれた事に喜びを感じているのが伝わる。素直になれないのはそういうお年頃だから仕方ない。
「・・・今年も目立ってるな〜みんな」
そしてその保護者席で今年も異様な程浮いている4人組を発見。言うまでもなく十六弥くん達だ。赤のTシャツ姿の十六弥くんとカレンちゃん。白のTシャツの亜津弥くんと赤のTシャツの華南ちゃん。チームTシャツと同じく胸元に写真がプリントされたそれは、しかしみんなの物とは顔が違う。俺の顔がプリントされている十六弥くんとカレンと、騎麻の顔の亜津弥くんと真斗の華南ちゃん。
・・・今日のためにわざわざ自分達で作ってきたらしい。
「・・・俺は嫌だって言った」
「まあまあ、いいじゃん楽しそうで」
実は隣にいた真斗が心底嫌そうな顔で自分の顔が見えないように目を逸らしている。ただ顔をアップにした俺達の物と違い、オシャレなプリントTシャツの用に仕上げてあるそれは流石カレンちゃんだ。
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