俺の出番は最終組。最後尾に並んで前の生徒達が走っていくのを見守る。前を見ると丁度次は真斗の出番のようで、グラウンドからは真斗を応援する声がたくさん上がっている。真斗のファンは可愛い系と綺麗系の人が多いので、声援は比較的綺麗な声が多い。これが渚くんなどになると低めの地響きのような声援になる。ちょっと怖い。 スタートの合図と共に走り始めた集団から一足先にお題の書かれたカードへとたどり着いた真斗。内容を確認すると迷わずに教員テントへと向かう。どうやらお題は先生に関係する内容のようだ。そして真斗に呼ばれ出てきたのは国語教師の真田先生、通常おじいちゃん。あだ名の通り先生陣での最高齢。 おじいちゃんを連れて走り出す真斗。と言ってもおじいちゃんにペースを合わせているため小走りくらいのスピードだ。ゴール手前で再度カードを引いて、出た課題をクリアしながらゴールする。真斗がしゃがみ背中におじいちゃんを乗せるとスピードをあげてゴールした。どうやら引いたお題はおんぶだったようだ。 『途中スピードダウンにより危なかったですが、見事1位でゴールしたのは赤組の常磐真斗選手！！さあさあ、みなさんが気になっているお題は一体･･････“かわいい人”！！なんとこのお題で我らがおじいちゃんを連れてくるとは！！』 「だっておじいちゃんかわいいじゃん」 「ほっほっほ」 こんなに人数がいる中で “かわいい人” で迷わずおじいちゃんを選んだ真斗に思わず爆笑。おじいちゃんも満更でもないようでにこにこと笑っている。 「いや、かわいいよ、かわいいけど！」 確かにおじいちゃんはかわいい。ゆったりした動作や口調に常ににこにこした顔、ポケットにおやつのせんべいを入れているのも間違いなくかわいいおじいちゃんだ。でも、きっとこのお題でみんなが期待していたのはその選択ではない。ほら、真斗のファンの子達とかきっと期待してたはず。 「なんなら俺だって真斗にかわいいと思われてると思ってたのに！」 いや、思われてはいるはず。でもおじいちゃんに負けた。なんだろう、ちょっと悔しい。 脳内でなんとも言えない敗北感を味わっていると、気づけば俺の出番がやって来ていた。赤白3人づつで6人が交互に一列に並ぶ。 『待ってました！最終組にして全校生徒の期待の星、常磐レイラーーーー！！！！今年の体育祭では一体何をやらかしてくれるのかーーーー！！！！』 「今年もうるさいな」 やらかす前提なのなんなの。そんな二年連続でやらかしたりしないから。 「位置について、よーい･･･」 パンッッ スタートの合図と共に走り出す。目に止まった真ん中のカードを拾い上げ書いてある文字を読み上げる。 “男” ････････････え。 いやいやいや、何このお題。意味わかんない。男って何。普通に男連れてけばいいわけ？ここ男子校ですよ？男だらけですよ？今日はかろうじて保護者席に女の人もいるけど。お題の意図がわからず困惑。俺なにか試されてる？ え、どうしよう。誰連れていこう。 『おぉっとー？一番で走り始めた常磐選手ですが、何故かその場から動きません！』 放送の声にハッとし、走り始める。位置的に生徒席よりも保護者席の方が近い。とりあえずそう思い保護者席へと向かった。 「十六弥くん来て！」 「俺か」 お題の意味がそのままであれば誰でもいい。さっきの固まっていた間に少しタイムロスをしているので、ここは走る速さでもなんでも最強な十六弥くんを選択。カレンちゃん達がいってらっしゃ〜いと緩く見送ってくれるなか十六弥くんと共に走り出す。 ･･･相変わらずアラフォーとは思えない身体能力で走る姿にグラウンドからは驚きと歓声が上がる。走るだけでこの盛り上がりとは流石とかしか言えない。 ゴール手前でもう1枚カードを引く。 「二人三脚！」 「余裕だな」 その場に用意された紐でお互いの足を結ぶ。そのまま足を踏み出そうとした瞬間ーーー。 「！っ、痛い痛い！！十六弥くん！！！」 「あ？なんで逆出してんだよ。普通こういう時は結んでる足からだろ」 「そうなの！？」 俺が結んでいない左足を前に出そうとした瞬間、十六弥くんが結んである右足を出した。その勢いでバランスを崩し、かつ、十六弥くんに引きずられた俺。十六弥くん的ルールでは二人三脚は結んでいる足から出すらしいが、初耳だ。 もう一度体勢を立て直してから次はちゃんと結んだ真ん中の足から出し走り始める。どうにか無事に走り始めた。元々の歩幅が近いおかげか走り出してしまえば問題はなく、むしろスピードに乗り切る前にゴール。ギリギリだが1位になることか出来た。･･･負けたら十六弥くんに何されるかわからないからね。