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いつだって十六弥くんは十六弥くん

『見事な走りで1位でゴールテープを切ったのは、常磐レイラ選手と、まさかのまさか・・・常磐選手の・・・お父さん?お兄さん?』 「お兄さんだ」 「うそうそ!お父さんだから!」 見た目が若い分お兄さんでもいけなくはないが、そこで嘘をつく必要はない。ドヤ顔で人を騙すのはやめなさい。 『なんとこのイケメンすぎる方は常磐選手のお父様でしたぁぁぁああー!!!なんという遺伝子!!なんだこの神々しさ!!常磐家恐ろしい!!!』 「おうおう、威勢がいいな」 相変わらずのハイテンションなアナウンスに会場も盛り上がりがすごい。お祭り好きの十六弥くんも楽しそうだ。 ゴールにいた審判にお題のカードを見せる。それを横から十六弥くんが覗き込んできた。お題も知らずに連れてこられた身としては気になるところだろう。 「お題 “男” 、クリアです!」 「おいおいおい、なんだよそのお題は・・・ま、男の中の男といえば俺だけどな」 「そうそう。そういうことだよ十六弥くん」 無事に1位を取れたのでオールオッケー。 その後は十六弥くんというレアな人物にテンションの上がった写真部により、何枚も写真を撮られてから自分達の席へと戻った。希望通り早速体育祭に参加出来て十六弥くんはかなり機嫌が良かった。 「今までほとんど競技に保護者が参加すること無かったけど、流石十六弥さんだね。めちゃくちゃ盛り上がってた!」 テントに戻ると興奮気味の凌にそう言われ、周りの生徒もみんななんだかそわそわしている。あの短い時間でここまでみんなの気持ちを盛り上げるとは十六弥くんの影響力の凄さを感じる。 「折角来てくれてるからね、もっとみんなも巻き込んで行かないと」 さあさあ、まだ体育祭は始まったばかりだ。もっともっと盛り上がっていこうぜ。 午前中の見どころとしてはやはり団体種目のチャンバラ合戦と棒倒しだろうか。団体種目は得点も大きく動くので出る側も応援する側も気合いが入る。 俺もチャンバラ合戦では頑張らないといけないので今は体力温存、応援に専念しよう。今グラウンドでは丁度 “移動玉入れ” の真っ最中。籠を背負った生徒が走り回り玉から逃げている。その中に凌やあっきー、冬弥、渚くんの姿があり声を上げて応援する。それにしても、籠を背負っている生徒の体力がすごい。あれは確か陸上部の長距離選手だ。つい、そちらの応援もしたくなる。 「ほらほら、棒倒しの選手は集合してー!」 「嵐ちゃん出番だね」 「行ってくるわ」 実行委員に促されて棒倒しへと向かう嵐ちゃん達。やはり今年も棒倒しにはパワー自慢の男達が集まっているようだ。赤組の主要戦力は嵐ちゃん、このくん、のいちゃんだろう。要やみっちゃん、真斗達もいるし他の生徒もみんな目がギラギラしている。ただ、それは白組も同じで入場門のあたりから熱気を感じる。 「十六弥くんとか亜津弥くんこういう競技好きそうだよね〜」 「流石に親をあの乱闘には参加させれないけどね」 テントに残っていた響ちゃんはこの後俺と同じチャンバラ合戦に出る。争いのイメージがないけど響ちゃんは大丈夫だろうか?むしろ響ちゃんのようなにこにこ菩薩様に殴りかかる人間なんかいるのだろうか?俺だったらそんなことは絶対出来ない。 ちなみにチャンバラ合戦には各チーム20人づつ保護者も参加する。生徒30人に保護者20人の50人1チームだ。プラスチックの柔らかい棒で攻撃し、腕に付けた紙風船を潰す。最後まで紙風船を守り抜けた人の人数で勝敗が決まる。 勿論それには十六弥くんと亜津弥くんは参加する。20人づつの枠だが、多分TOKIWAグループの親達でいっぱいになるだろうことは予想済。TOKIWAの人間はみんなお祭り好きの活きのいい人達ばかりだから、きっと本気で戦いに来る。 「あ、始まるよ」 「赤組がんばれー!!」 準備が整いグラウンドには6本の棒が立っている。それを囲うように立つ赤白それぞれの男達。ピストルの音と共に雄叫びを上げながら二つの色が混ざり合い、取っ組み合いが始まる。去年も見たが、なかなかの激しさで土埃が舞う。 至る所で人がなぎ倒され引きずり倒されと、まさに大乱闘。ルールとして殴る蹴るは禁止だが、際どいラインだろう。その中でもやはり目立つのは向かってくる敵を物ともせずに突き進む嵐ちゃんの姿。 「嵐ちゃんすごい!かっこいい!十六弥くんばりに容赦ない!悪党ぽい!」 「それって褒めてるの?」

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