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運も実力のうち
棒倒しの結果は残った旗の数が2対1で赤組が勝った。今のところ全体の得点も赤組が一歩リードしている。
棒倒しから戻ってきた生徒達はみんな服は砂だらけで、膝や腕から流血している人もいる。男子校なので多少の怪我は生徒も学園側も了承していた。本気で戦った証拠ということでテントで各々消毒や手当てを済ませている。俺は痛いのが嫌いなので去年この光景を見て棒倒しに出るのはやめようと誓った。
そして次はまた団体種目であるチャンバラ合戦。用意されたプラスチックの棒と紙風船を腕に装着してそれぞれの陣地に待機する。
「十六弥くんがいれば勝利は確実だね」
「亜津のことは任せろ」
生徒に混ざりチームカラーの鉢巻を巻いた保護者達。十六弥くんのような学生に紛れる見た目のパパから明らかに運動不足を感じるパパまで様々だ。その中でしっかりチームカラーのTシャツまで着た気合いの入ったパパは十六弥くんと亜津弥くんくらいだけど。
相手側につい先程棒倒しに出ていた騎麻と鷹の姿を発見。どんな体力をしてるんだと呆れる反面、種目順を決めたのは俺なので素直に心の中で謝っておく。ごめん。
『一瞬の油断が命取り!!敵も味方も入り乱れ、勝利を手にするのはいったいどちらの組か!!!』
放送に合わせてどこで用意したのかもわからない、ほら貝の音と共に一斉に雄叫びを上げながら走り出す。
「ぅおらぁぁああっ!!!」
パァンッ
素早く走り込み目の前に迫った敵が棒を振り下ろすより先に相手の紙風船を叩き潰す。そのまま横に振り抜き隣にいた敵の攻撃を払い、突きの勢いでもう一つ。人数が多い分大きな動作では味方も攻撃しかねない。最小限の動きで敵を倒していく。
「や、やべぇ、動きが速すぎる!!」
「近づくな!巻き込まれたら死ぬぞ!!」
中央付近で聞こえた声にチラッと視線を向けるとそこで激しく打ち合う銀と赤の髪の毛が僅かに見えた。それだけで誰かわかる。プラスチックの棒であそこまで激しく打ち合えるのは十六弥くんと亜津弥くんくらいだ。間違いなくあちらには近づかないのが吉。あれは最早木刀レベルの殺傷力がある。
「!」
「よそ見は禁物だよ!」
咄嗟に避けたすぐ顔の横を真っ直ぐにブォンっと風を切るような音がした。そのまま体を捻るようにしてサイドから振り抜いた攻撃は相手の棒によって弾かれる。
「よく避けたね!」
「騎麻こそ!」
好戦的な表情でこちらを見つめる騎麻にさらに攻撃をしかける。どちらも一歩も引かない打ち合いに周りの観客も盛り上がる。トータルの身体能力では俺の方が上だが、周りに沢山人がいる状態はどうにも動きづらい。
そして、騎麻の攻撃を後ろに飛び避けた時に、それは起こった。
どんっ
「あ」
「っえ、、ぅわぁあっ!」パァンッ
後ろにしゃがんでいたらしい生徒に気付かず激突した俺はそのまま後ろ向きにひっくり返った。綺麗に後ろに一回転し、なんと転がった反動で腕の紙風船も割れてしまった。
「ぅわぁ!レイラさん大丈夫ですか!?!すみませんすみません!!」
「・・・だ、大丈夫」
一瞬何が起こったか分からなかったがぶつかった一年生らしい子がすごい勢いで慌てている。どうやら解けた靴紐を結んでいたらしい。相手に怪我はないようでひたすら俺に謝っている。
咄嗟に受け身はとったが土の上は固くて背中が痛い。しかも紙風船も割れてしまった。なんというか、残念だ。
そのまま再びほら貝が鳴り終了となった。
「なに、お前負けたの?」
「負けたってか、自滅したってか・・・え、十六弥くん顔どしたの」
「亜津に殴られた」
「えぇー・・・」
俺の所に現れた十六弥くんはやはりというか、紙風船をしっかり死守していたが右頬が若干赤く腫れていた。しかもそれは亜津弥くんの攻撃が当たったらしい。痛そう。
「亜津の方がもっと腫れてるぞ」
・・・どんだけ本気で戦ったんだよ。
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