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やけくそ
『常磐真斗選手!!凄い追い上げです!!!3位の位置から前を走る白Aと赤Bを抜いて一気に1位へ躍り出たぁぁぁぁー!!!』
嵐ちゃんからバトンを受け取った真斗があっという間に先頭を奪い後続との距離をあけていく。その後に続く白Aの選手と赤Bの響ちゃんもどうにか離されまいと食らいついている。そして更に負けていないのが最後尾にいた白Bだ。気合いで距離を縮めてきた。ここにきて4チームの差がまたほとんどなくなった。
「面白くなってきた!」
初めにこのくんがバトンを受け取りスタートし、少し間が空いて騎麻俺晃太くんが走り出す。順位は悪くない。
「響ちゃん!!」
「レイラ君!!」
走り込んできた響ちゃんに手を挙げてアピールしつつ、テイクオーバーゾーンのギリギリでバトンを受け取る。後ろに向けてあげた左手に響ちゃんからのバトンが力強く押し込まれ、、、
パシィッン
「っ!!」
思いの外力強いバトンパスが手のひらの傷口を直撃。予想外の衝撃にバトンを落としそうになるのをどうにかギリギリで持ちこたえた。
(いったぁぁぁぁーーーい!!!)
痛い。痛すぎる。でも走り始めたらもう止まれない。なんなら手も痛いが走る為に大きく動かす膝が一番痛い。止まりかけた血でガーゼと傷口が引っ付き、それが走るたびにガーゼの中で引き攣れてめちゃくちゃ痛い。
涙が滲んでくるのをどうにか我慢し一刻も早くゴールしたい一心で足を動かす。
『全てのバトンがアンカーに渡り猛スピードでゴールを目指して駆け抜けていきます!!先頭は赤組大将の近衛選手!!その後ろを追い上げてくるのは白組大将の常磐選手です!!!・・・おぉっと!!!さらにその後ろから恐ろしいスピードで追い上げているのは赤組の常磐選手!!常磐レイラ選手です!!!』
(あぁ・・・痛過ぎて逆に感覚が麻痺してきた)
ゴールまでの距離は残り3分の1程。前を走る騎麻がこのくんに追いつこうとしている。二人までの距離はすでにほんの2、3歩程しかない。いける。そう思った時には視界の横に二人の姿をとらえ、次の瞬間には視界が開ける。その勢いのままでゴールテープを勢いよく切った。
『見事な追い上げにより1位でゴールしたのは常磐レイラ選手!!赤組Bチームです!!!続いて僅差で2位に滑り込んだのは白組Aチームの常磐騎麻選手!!3位に赤組Aチームの近衛選手!!僅かに遅れて白組Bチームの藤後選手です!!なんという素晴らしい走りでしょう!!!全ての選手に祝福の拍手をーーー!!!!』
グラウンドには割れんばかりの拍手と歓声が上がる。かなりの接戦。誰が勝ってもおかしくなかった。
「いやぁ〜負けちゃったなぁ〜・・・って、ぇえ!?」
「お疲れレイラく・・・んん゛!?」
「いい走りだったな・・・ぁあ!?」
「!?」
走り終わって声をかけてきた騎麻や集まってきたチームメイトの言葉がどれも驚きに飛び上がる。というのも、
「え、レイラ、ちょっと、、なんでまた号泣!?」
「嬉し泣き・・・では無さそうだな」
走っている最中はどうにか堪えていた涙がゴールと同時に限界を迎えて決壊した。途中で感覚が無くなっていた膝は取り替えてもらったはずのガーゼと包帯に赤く血が滲んでいるし、手のひらの絆創膏もなんだか変な液体でぐずぐずとしている。なにこれ、組織液?
「い、痛い・・・」
「いや、よくその怪我で頑張った!!すごいぞ!!!」
「見て・・・血、でてる」
「こらこら!見なくていいんだ!むしろ見るな!!」
剥がれかけのガーゼをペラっと捲るとやっぱりというか痛々しい傷口が現れる。え、グロい・・・。
「・・・泣く」
「もう泣いてるからぁ〜っ」
慌てた騎麻に抱きしめられよしよしと背中を撫でられる。そのまま本日三度目の救護テントに連行された。
そして保健室に移動したレイラは閉会式が終わるまで帰って来なかった。
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