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本日のキング
「おい、酒はないのか」
「残念〜学園内は禁煙禁酒で〜す」
高校の学園祭で酒を要求するなんてなんて客だ。しかも教室を貸し切りにするという横暴。ホストを全員自分の周りに侍らすとかどこの王様ですか、そうです十六弥様です。一緒に来ている亜津弥くんは十六弥くんのストッパー役ではないのだろうか。
「ウィスキーボンボンならありますよ」
「お、気が利くな要」
「酒はないけどコーヒーには拘ってるんですよ!」
「じゃあ俺と十六弥で2杯頼もうか。凌が淹れてくれるのか?」
「はい!」
元々面識のある要と凌は普通に二人へ話しかけているが、他のクラスメイトは完全に緊張して萎縮してしまっている。みんなTOKIWAという名前にビビっているらしい。・・・俺に対しては最初っからラフな感じだったのに、やっぱり社長には態度が違うものなのか。俺だってTOKIWAのお坊ちゃまだぞ?ま、別に特別扱いされたい訳では無いのでいいんだけど。
「おい、No.1らしいとこ見せろよ」
「え〜・・・俺は存在がNo.1だから特に何するとかじゃないんだけど」
無茶を言う。俺は笑顔を振り撒くのが仕事だぞ。あ、でも一つホストっぽい事としてクラスで練習したものがある。それを今披露するチャンスなのではないか。
「十六弥くん、これ注文して」
「なんだそれ」
「いいからいいから」
不思議そうな顔をしつつ俺が指示したメニューを注文してくれる十六弥くん。俺は周りのみんなにこっそり目で合図を送る。するとみんなの顔が一気に緊張が更に濃くなる。
いつの間にか迅に渡されたマイクを手に立ち上がる。
「A卓のキングからスペシャルメニュー頂きました!!」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
「感謝を込めて!!」
「「「「まぢ感謝!!」」」」
「愛を込めて!!」
「「「「ラブ!!」」」」
「いっちょいきます!俺らのメロディー!!!」
「「「「ハイハイハイハイ!!!」」」」
俺の声に合わせて一斉に揃った合いの手を入れつつ動作もピッタリ。いつの間にか流れ始めた音楽にのせてそれぞれのフォーメーションへと移動する。
『LOVE! LOVE! LOVEドッきゅん!!』
『ヤッホー! 飲んで 飲んで 飲んで 飲んで!
ヤ ヤ ヤッホー! グイグイよし来い!』
クラス中を巻き込んでのシャンパンコール。といっても、実際のメニューはお取り寄せのぶどうジュースなんだけど。YouTubeで検索して出てきた歌舞伎町の某ホストの曲の完コピだ。色々なYouTubeを見てごちゃ混ぜの内容ではあるが、掛け声と動作の揃い具合いはなかなかのものだと思う。
「どう!?」
最後までミスなくやりきった俺はドヤ顔を十六弥くんと亜津弥くんに向ける。かなり上手くいった自信があるんだけど。
「幼稚園のお遊戯会見る時の親の気持ちがわかったわ」
「あぁ、確かにこんな感じだったかも」
「お遊戯会!?!?」
えぇーーー・・・割りと人気のパフォーマンスなんだけどなぁ。でも十六弥くんに、よくやったと頭を撫でられ満更でもない。放課後に屋上で練習した甲斐が有る。
その後、流石にずっと貸し切り状態を続ける訳にもいかないため、名残惜しいが十六弥くんと亜津弥くんとはお別れ。初めは緊張していたクラスのみんなも最後の方は慣れてきたのか二人にじゃれついていた。十六弥くん達は歳下、というか子供を懐かせるのが上手い。ファザコンのレイラくん的にはちょっとだけ嫉妬。それ以上に俺の好きな人同士が仲良くなるのが嬉しい。
「じゃあな、真斗のとこ行ったら俺らは帰るから」
「ん〜〜〜〜」
午後から予定があるらしく騎麻達のショーの時間までは残れないらしい二人は、今から騎麻と嵐ちゃんと合流して真斗の所へ行くらしい。何そのメンバー。俺も一緒に行きたい。しかし休憩時間はまだ先。ずるい。
仲間はずれなのが嫌で最後の悪あがきとして、十六弥くんに抱きついて離れない俺。コアラのように完全に体重を預けて全身で教室から出るのを阻止する。しかしそんな抵抗をものともせず俺を体に貼り付けたまま歩きだそうとする十六弥くん。むしろこのまま引っ付いて行ってしまおうか。
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