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静かに終わっていく文化祭

「今日十六弥さんと歩いてたら親子に間違えられた」 「まぢで」 確かに前々から十六弥くんと嵐ちゃんはどことなく雰囲気が似ていると思っていた。身長もほとんど同じだし、体格も似ている。十六弥くんはハーフだけど俺の見た目は完全に白人だし。なんと言っても俺はカレンちゃん似。 「ま、もうほとんど十六弥くんの息子みたいなもんだし間違ってはないよね」 「それ十六弥さん達も言ってたわ」 嵐ちゃんと連れ立って料理の置かれたテーブルを回ってみるが、やはり一日中フードファイター並に食べ続けたためイマイチお腹が減っていない。ステージでは相変わらず騎麻達が演奏をしている。ライトで照らされているとはいえ日の沈んだ今、辺りはとても暗い。 中央の賑わいから少し離れた所にあるベンチに座って一息。二日間のお祭りの終わりを惜しむようにみんなはしゃぎ回っている。 「あと少しだから頑張れよ」 「・・・バレてた?」 実は二日目の午後から少し頭が重く体が熱っぽい。元々体温が低いので少し触れたくらいでは気付かれないくらいだが、熱があるのだろう。先程の生徒会のライブでも自分の歌声がガンガンと頭に響いていた。 しかも後夜祭の会場を野外にしたため肌寒さのせいか夕方よりも悪化している。それでも生徒会長として、みんなのことを最後まで見守る義務と責任が俺にはある。 上手く隠していたつもりだったんだけどな。実際にクラスメイト達にはバレていなかったと思う。 「ここなら人もあんまいないし寝てもいいぞ」 「ん゛〜〜蘭ちゃん寒い〜〜〜」 先程まで気を張っていたからかどうにか耐えていたものが一気に緩む。嵐ちゃんの傍にいて意地を張り続けることは難しい。 嵐ちゃんが着ていた薄手のアウターを借り、それでも足りず嵐ちゃんにぴったりと密着する。触れている部分から温かさが広がるが、いつもより差がないその体温に俺の体温の高さを感じさせる。 「嵐ちゃんと」 「ん?」 「一緒に出来る学校イベント、もう卒業式だけだなぁ・・・」 学園祭が終わってしまえば、もう残る大きな学園行事といえば卒業式くらいだろう。ただでさえ三年生は受験があり忙しい。学校での授業もなくなり、それぞれ寮や自習室での勉強がメインとなる。寮に戻れば会えるとはいえ、なんだか寂しいものだ。 「別に会えなくなるわけじゃないから、寂しくならないと思ってたんだけどな」 「俺達が学園にいるのも、あと3ヶ月ちょっとか」 今年の卒業式の時に開くん達に言ったように、卒業したからといって会えなくなるわけじゃない。だから別に悲しいことではないんだ。そう言ったのは自分のはずなのに、数ヶ月後に嵐ちゃんや騎麻、響ちゃん達三年生が学園にいないと思うと寂しい。 寮に戻っても、部屋に誰も居ないのだ。 「一人で寝る練習しなきゃ・・・」 「そうだな。流石に一緒に寝てやれないからなぁ・・・」 元々は一人で寝ていたはずなのに。もしかしたらそれは家族の元を離れて日本にきたホームシックや、体調不良など色々な要因が重なった結果かもしれないが、一人は寒くて眠れない。でも、嵐ちゃんが卒業してしまえばそうも言ってられない。 嵐ちゃんに凭れたままぼんやりと辺りを見渡す。今日が終わればまた学園には日常が戻ってくる。夜の学校といういつもと違う非日常から日常に瞬時に切り替わるのだ。 俺の中での嵐ちゃんという当たり前の日常が、数ヶ月後には非日常に変わる。でも、今はまだ嵐ちゃんが近くに居てくれる日常を全身で味わいたい。 「今日は一緒に寝てね」 「練習はまだ先でいいんじゃないか?」 そうやって嵐ちゃんが甘やかすと、結局卒業のギリギリまで一緒に寝てそうだなぁ。ま、これからのことはなるようになる。今はこの日常を楽しもう。

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