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ただいま
夏休みと違い冬休みは短くあっという間に終わってしまった。
「はい、お土産〜」
ハワイ限定販売のスニーカーと勉強を頑張る嵐ちゃんへの糖分補給を込めてのマカデミアナッツチョコ、十六弥くんおすすめのコーヒー豆。運べなかった分は後日届きます。
「楽しかったか?」
「楽しかった〜毎日パーティだよ」
元々賑やかな人間が集まるんだから当たり前だが、毎日のように騒ぎまくった。同じく旅行に来ていたものやハワイ在住のTOKIWAの社員でのパーティもしたし、年末の忘年会にそこからの新年会。大いに盛り上がった。
「嵐ちゃんも参加出来たら良かったんだけど」
「俺も実家でゆっくりしたさ」
嵐ちゃんも嵐ちゃんの家族でゆっくりとした年末年始を過ごしたのだろう。それは良かった。きっと家では久々の嵐ちゃんの帰省に晴さんや麻耶さん、凛ちゃんも大喜びだったに違いない。
それにしても、10日ぶりの嵐ちゃんはいいな。毎日いるのが当たり前の状態からの10日のおあずけは、嵐ちゃんの香りをより倍増で美味しくする。
ソファーに座る嵐ちゃんのお腹に顔を埋めてすーはーすーはーと深呼吸をすると鼻いっぱいに爽やかな香りが。リラクゼーション効果抜群。このまま眠りについてしまいたいような程の安らぎに頭がふわふわする。
「今日から一人で寝るんじゃなかったか?」
「・・・明日からじゃダメ?」
そういやそんなことを休み前に話したかもしれない。嵐ちゃんの卒業に向けての事前準備。でも今は10日ぶりの嵐ちゃんを堪能したい。こんな極上の抱き枕が目の前にあるのに別々で寝なきゃいけないのだろうか?なんのために?
一緒に寝たい。別々は嫌。という念を込めて嵐ちゃんを見つめれば困ったような表情で見下ろされる。もう一押し。
「明日からは練習するぞ?慣れておかないと困るのはお前なんだから」
「嵐ちゃん大好き」
とりあえず今日の安眠は手に入れることが出来た。
しばらくの間は土産話や久々の家族での出来事を話していたが、旅行の疲れもあり明日から始まる学校に向けて早めに寝ることにした。三年生は徐々に自由登校となるが、試験に向けて学校に勉強しに行く生徒も多い。自習室や図書館などを利用したり、学校にいた方が先生達にわからない所を聞くことも出来るからだ。
それでも学園内の雰囲気は少し静かになっていく。それが三年生が少ないせいなのか、一二年生が未来の自分達の姿を想像してなのかはわからないが。去年も味わったはずのこの感覚が今年は更に身近に感じられる。
十六弥くん達が言っていた。
「学生時代の三年間は本当にあっという間だ。大人になっての三年間もあっという間だけど、内容の濃さや得られるものはあの三年間でしか味わえない。その時に得た経験で大人になってからの世界は大きく変わる」
俺もその三年間のうちの半分以上は終わってしまった。残りは一年と数ヶ月。今まででも学園に入って色々な経験も出会いもあった。でもこれからの残りの一年では嵐ちゃんや騎麻達がいないまた違う一年が待っている。
まだまだ味わったことの無いことも沢山あるのだろう。
残りの学園生活が未来の俺をどういう風にしてくれるのか、楽しみで仕方ない。
そんなことを考えているうちに気付けば意識はほとんど夢の中。耳元に聞こえるゆっくりとした嵐ちゃんの鼓動が徐々に遠くなる。
「おやすみ」
キスと共に落とされた言葉には既に返事は返ってはこない。それがわかっていた嵐ちゃんによりしっかりと毛布をかけ直され、身長の割りに細身の身体を抱え直される。
明日は寝坊せずに起きられるだろうか。
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