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俺のわがままを聞いてくれ

「え、レイラ君ちょっと待って」 先程までそれぞれが自分の仕事をしていたはずなのに、今はみんなの視線が俺へと注がれている。イベントの少ない三学期は比較的生徒会は落ち着いている。しかし一年間の活動内容をまとめたり、来月に控えた卒業式の準備、予算の見直しになんなら来年度の新入生に向けての準備も少しずつ進めている最中だった。 各々が机に向かって仕事をしていた時に俺がケイに言った一言で全員の手が止まった。 「決めた、マラソン大会無くす」 去年から絶対に無くしてやろうと思っていた。だって山の中を10kmも走るとかしんど過ぎる。というか、山の中走って誰得? 「・・・レイラ、私情を挟みすぎるのは良くないぞ」 誰も反応を返さないからか、絞り出すように意見を言ってきた真斗。まわりのみんなも言葉には出ていないが同意するように頷いている。 「え、むしろマラソンしたいの!?」 「いやマラソン自体は別にしたいとかはないけど」 「じゃあいいじゃん!」 マラソンしたいわけじゃないなら無くしてもよくない!?という念を大盛りで込めた視線をみんなに投げかける。ぶっちゃけ二つ返事で賛成して貰えると思っていたから俺がびっくりだよ! 「いや、無くしてもいいんだよ?でも、ほら、理由が・・・」 「マラソンしんどい!疲れる!無理!」 「・・・っていうのはちょっと、ね?」 間髪入れずに答えたら、困ったような表情のケイにやんわりと否定された。なんで。俺にとっては死活問題よ?何度も何度も保健室に運ばれる姿覚えてるでしょ?一年経ったら俺の体力は振り出しにきっちり戻っていますよ? その後もゴネにゴネまくったが俺の主張する理由では賛同してもらえなかった。最終的に和臣おじさんに電話まで掛けたのに、 「十六弥君からレイラ君の体力作りをお願いされちゃってるからな〜」 という絶望的返答までもらってしまった。ぶっちゃけおじさんにお願いさえしてしまえばこっちのもんだと思っていたので衝撃が大きい。いつの間にそんなお願いをしたんだ十六弥くん。体育祭の時か。もしくは文化祭の時。 学園のトップにいる和臣おじさんに十六弥くんといえ権力は及ばない。というか、口出しはしない。でも、こういうお願いならすんなり通ってしまうから困る。俺の行動の先読みか。 「せめて距離を短く・・・」 「レイラ君なかなかねばるね」 体力バカの鷹には俺の気持ちはわからないよね。俺だってマラソン大会を普通に受け入れているみんなの気持ちがわからないし! 「去年走れたんだろ?今年も大丈夫だって」 「・・・俺去年最下位だったけどね」 そう、実は俺去年の最下位です。学年でも最下位だし、タイム的にも最下位。途中で休憩挟んだり、ちょっとしたハプニングはあったとはいえ、ぶっちぎりのビリでしたが何か ? 別にこれに対しては負けず嫌いとかは関係ない。元から勝負になるなんて思っていないから。何より俺の目標は生きて完走することだった。ただ、違うとすれば今年は二年の俺は一年の後に走る。ということは最下位だった場合、俺は最後めちゃくちゃ孤独。それは避けたい。寂しい。 「ゴールの瞬間はグラウンドで全生徒が応援してくれるぞきっと」 それはそれでなんだか嫌だな・・・。 一ヶ月後、体育の教師陣に伴走されつつ、一二年の声援に包まれてゴールするレイラの姿は現実となった。 今回で学んだこと。 俺のワガママも、たまには通らないことがあるらしい。

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