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突然のカミングアウト
「え、嵐ちゃん今なんて言った?」
寒い日がまだまだ続くなか、卒業式まであと一週間を切っていた。天羽学園の校舎を囲う山の中に多く樹生している桜の木も蕾が膨らみ、当日には美しいピンクの花を咲かせるのではないかと予想している。
そんな学園が卒業ムードに包まれている中、俺は嵐ちゃんからの突然のカミングアウトに驚きが隠せない。
実はまだ、嵐ちゃんの卒業後の生活について詳しく聞いていなかった。それは合格前の不確定な内容ではなく、確定した内容を報告すると言われていたから。特にその事について異議が無かった俺は嵐ちゃんからの報告があるまで特にその話題に触れて来なかった。
何も言ってこないことから早い段階で合格が決まっていた騎麻とは違い、一般入試であることは知っていた。どの大学を受けるのか気にならなかった訳では無いけど、嵐ちゃんの決定に俺が何か言うつもりもないのでその時が来るのを待ちわびていた。
そして、嵐ちゃんから遂に進路の話が出たのが今。
しかしその内容は俺が予想していたものでは無かった。
「俺、大学はイギリスに決まったから。学校が始まるのは9月だけど、一年間はまぁファウンデーションコースでの勉強になるな」
イギリスと日本では教育の課程が違うため、確かに日本の学生がイギリスの大学に行くにはファウンデーションコースの受講が必要だ。そこで大学入学に必要な知識を身につける。そのことは知っている。
しかし俺が突っ込みたいのはそこじゃない。
「嵐ちゃんイギリス行くの?」
「そうだ」
「俺日本にいるんだけど」
「そうだな」
当たり前だが俺は嵐ちゃん達と一緒に卒業するわけではない。あと一年はこの天羽学園にいる。そのことは初めから分かっていたし覚悟していた。別に学園に居なくても週末になればお互い学校が休みなので会える。毎週は難しかったとしても頑張り次第でどうにでもなる。
そう思っていたのだ。
「流石に土日で会いに行ける距離じゃないよ・・・」
移動だけで休みが終わってしまう。
突然の事実に放心状態の俺。嵐ちゃんも俺の反応は予想していたのだろう、困ったような表情を浮かべてはいるが特に何かを言ってくる訳では無い。
「・・・ちなみにイギリスを選んだ理由は?」
別にイギリスに行くことが悪いことでは無い。俺も元々はあちらにいたし、何より世界は日本が全てではないのだから。
「俺はこれから先もずっとレイラといるつもりなんだよ」
「それは俺もそのつもりだよ」
俺はこの先の人生に嵐ちゃんがいない想像などしたことが無い。もし10代で何をこの先何十年のことを言っているんだと周りに言われようと、その事実は変わらないものだと確信している。
「今までは漠然と大学行って、卒業後は父さんの会社に入って兄貴と会社を更にデカくしてやるかって思ってたんだけど」
嵐ちゃんのパパは国内シェアNo.1の車のメーカーで、最近では海外にもその規模を拡げている。これからきっとどんどん大きな企業になる会社だ。今年大学院を卒業するお兄ちゃんの凛ちゃんも、卒業後は会社に入りその手伝いをすると聞いている。
「でもやめた。別に父さんの会社にいてもお前と一緒にいることは出来るけど、俺はもっとお前に近い世界で生きていきたいと思う」
「俺に近い世界?」
「春から学校通いながら十六弥さんの下で働くことにしたんだ」
「え!?」
嵐ちゃんが十六弥くんの下で働く?つまりはTOKIWAに入るということだろうか。確かにTOKIWAは俺にもかなり関わりのある近い世界ではあるけど・・・
「俺別に嫌いでもないけど車にそこまで興味ないんだよな」
確かに色々な事業に幅広いTOKIWAだけど車は分野外だ。ホテルやレストラン、病院にテーマパーク、レジャー施設をメインにファッションから芸能、映像関係といったのが今のTOKIWAの事業。十六弥くん達がそれぞれ得意な分野を分散している。
「俺映画監督目指そうと思ってるんだ」
嵐ちゃんは無類の映画好き。そしてTOKIWAでの映像関係の担当は十六弥くんだ。確かに十六弥くんの下で働くということは、そういった映画の撮影などの仕事を学ぶのにも最適だろう。
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