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新たな夢の誕生

「レイラ、お前映画に出たことあるだろ?」 「なんで知ってるの」 何故その事を。出たことがあると言ってもほとんど記憶はない、3歳くらいの話だ。撮影現場に十六弥くんが顔を出したついでに、俺やカエラ、サハラをその場のノリで出演させたことがあった。・・・その後、少しの出演シーンだった筈が何故か台詞が与えられ、シーンが増え、役名がつき・・・と気付けばただのエキストラではなくなってしまったのだが。 「初めは気づかなかったけど、俺あの映画観たことあるんだよ。しかも俺が初めて観た映画だぜ?」 ニコニコと嬉しそうに話す嵐ちゃんから、映画を初めて観た小さな嵐ちゃんのわくわくしている姿が想像出来た。 「モデルをやりながらいつかは俳優にもなりたいって言ってただろ?」 「うん。人の気持ちを動かす仕事がしたいからね」 一流のモデルになるのは勿論俺の一番の夢だけど、モデルをメインに様々な仕事をしてみたいと思っている。雑誌や写真で表現するのは勿論、映像の中で人の心を動かすような表現がしてみたい。だからいつかは俳優として映画などにも出たいと思っているという話は、一度嵐ちゃんにしたことがあった。 「俺が映画監督になったら、最初の作品の主演はレイラだって決めてるんだ」 なんだか夢物語のような話だ。映画監督という仕事もモデルや俳優という仕事も、成功するには並大抵の努力では叶わないし、現実に出来るのはほんの一握りの人間なのはきっと嵐ちゃんもわかっている。 でも、嵐ちゃんの語るその未来がいつか絶対に現実になるだろうという自信が嵐ちゃんにも、俺にもあった。だって夢は語るものじゃない。叶えるものだから。 「俺を世界一の俳優にしてくれる?」 「俺を世界一の映画監督にしてくれよ?」 お互いの言葉につい同時に吹き出すように笑いがおこる。嵐ちゃんがイギリスに行くと言った時は予想していなかった出来事にただただ驚いたが、こうやって理由を聞いてしまえば納得出来た。当分は簡単に会うことは出来なくなるかもしれないが、その先の未来を考えれば一年なんてあっという間かもしれない。 「あ〜、でも一年も一人で寝なきゃいけないじゃん」 しかし週末には会えると思っていたのが会えて長期休暇のみ。その事を思い出してしまうとわくわくしてた気持ちから急に寂しさが押し寄せてきた。 「嵐ちゃん〜〜〜っ」 「え、急にきたかぁー・・・」 寂しいと思った瞬間に溢れてきた涙。一生会えない訳では無いけどやっぱり寂しいもんは寂しい。だって頻繁に会う前提の心構えしかしていなかったから。 「毎週本家帰ろ・・・」 「カエラ達呼び出すのか」 「うん・・・」 カエラ達の学校は天羽学園より本家から遠いのであまり頻繁には本家に帰ってこない。でもこの際、可愛い弟のわがままを聞いてもらおう。それかティノをまた学園に連れて来ようかな・・・。寮に帰って一人なのも寂しい。 「いいな、嵐ちゃん毎日十六弥くんとカレンちゃんに会えるじゃん・・・」 「実は常磐家に住めって言われてる」 「いーいーなぁーーーー!!!!」 俺も一緒に住みたい! その後も気持ちが落ち着くまで嵐ちゃんに抱き着いたまま寂しさを思う存分喚き散らした。三年生は卒業式のあと3日以内には退寮することになっている。その後直ぐは嵐ちゃんも実家で過ごすらしいが、4月の頭にはイギリスに向かうらしい。 寮にいる残りの一週間は思う存分に嵐ちゃんに甘えておこう。そうすれば、きっと、俺は一年頑張れる。 「卒業式では嵐ちゃんが号泣するくらいの感動的スピーチしてあげるから」 「楽しみにしておく」 今日たくさん泣いた分、卒業式では泣かない。新しいスタートをきる三年生を、俺は笑顔で送り出すんだ。

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