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第11話 尾須崎と言う男。

あの衝撃の事実から一週間経った。 和泉には香水が効かない・・・それは、一体何故なのかとずっと考えていた。 自分の中でそれなりに考えてみた。 『和泉が女性』『男に興味が無い』等考えたがそれ以上は何も浮かびはしなかった。 「はぁ・・・。」 「どうかしたんですか先生?」 その声を聴いた瞬間俺の肩が震える。 聞き覚えのある嫌な声。 俺が一番恐れている声の主は一か月程前に俺を無理矢理襲おうとした尾須崎である。 「ひっ・・・あ・・・いえ・・・。」 「そんなに怖がらなくても良いだろ?  何時でもあの時の続きしてやるからな?」 「い、嫌ですよっ・・・。」 「そりゃ、残念だ。」 そういって尾須崎は俺から少し離れる。 今日はわざと香水を着けなかった。 何度か着けそうになったけれど俺はそれを何とか阻止した。 だから今日はケツは掘られないはずなのだ。 俺のお尻の安全は保たれている。 そう、今日は男に尻を揉まれる事も無くなる。 「今日は香水を着けて無いんですねぇ。」 尾須崎が机に手を着いて俺の顔を覗き込んでくる。 そういえば、彼の顔をあれからちゃんと見ていなかったが案外整っている。 長いまつ毛に整えられた眉毛。 安心出来る男では無く危ない男を連想させる。 「どうかしましたか?  俺の全身を舐めまわす様に見て。」 「な、舐めまわすって・・・。」 「物欲しそうな顔してましたよ?」 「し、してません!」 「ククッ・・・アハハっ・・・本当に天魔先生面白い。」 からかわれたのだと今気づいた。 それを知った瞬間に恥ずかしさのあまり顔が熱くなっていく。 尾須崎は俺の顔を見てさらに笑う。 本当にこの男といると調子を狂わされる。 深呼吸をして俺は顔の火照りを抑える。 それにしてもどうしてこの男は俺に絡んでくるのだろうか。 俺に絡んで彼にメリットがあるとは到底、思えない。 だって、彼の顔ならどんな女性でも恋に落ちると思うのだ。 フラれた事が無いと言われてもあまり不思議には思わない。 「どうして俺をからかうんですか。」 「そりゃぁ、面白いからに決まってるじゃないですか。  それに、俺にこんなに素直に関わってくれるのは天魔先生くらいですし。」 「素直に関わってくれるって・・・尾須崎先生の周りには他にも色んな人がいるじゃないです  か。」 何を言ってるのだ。 と、言いかけたがそれはあえて言わなかった。 彼は京極の兄で本当は尾須崎では無く長谷部と言うらしい。 長男であるはずなのに家系を継がずに教師の道を選んだ事を後ろめたく思っているのかそれともその名で人と関わると利用されるからかは分からないが彼は長谷部と名乗るのを極度に嫌がっているらしい。 その為に尾須崎と名乗っているのだと京極から聞いた。 「俺の本名を皆知っているから下心ばかりの女が寄ってくるだけですよ。」 「確かに・・・長谷部家と聞くと皆近寄ってくるかもしれないですね。」 「でも、天魔先生はそんな素振りは一切見せなかった。  俺が生きてて初めてですよアンタみたいな人種。  それに、俺は好きな子をイジメたくなる性格なので。」 さらっと好きな子と言えるのは彼の美徳なのだろう。 その、美徳が良い方に進むか悪い方に進むかは彼次第だが。 なんだか、その話を聞いて尾須崎への見方が変わった気がした。 「だから、仕事終わったらホテル行きましょう。」 前言撤回。 一度でもいい人だなんて思い始めた俺が馬鹿だった。

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