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第6-2話授業中の戦闘ごっこ
……誰?! 何してんだよ、こんな所で!
息を殺して二人の様子をうかがっていると、圭次郎は男に向かって指差した。
「火の精霊よ、紅蓮の鎖で我が敵を捕縛せよ……っ!」
低い声で圭次郎が呟いた瞬間、男は踊り場から一気に階段の一番下まで飛び降りて着地する。
そしてすかさず圭次郎に迫りつつ、手を伸ばす――咄嗟に圭次郎が横へ飛び、離れながらも指差しはやめない。
ババッ、と唐突に圭次郎が指差した腕を振りまくれば、男は届くはずのないその手を避けるように階段を飛び上がったり、降りたり、跳ねたり。
……緊迫感はあるんだけど、何やってんだコイツら?
火の精霊とか、紅蓮の鎖とか、中二病満載な単語を口にして……まさかここでも寸劇の練習をしてんのか? そういえば今、数学の授業なんだよな。百谷家の長男先生が担当だし、弟が抜け出しても黙認しちゃうか……どうもあの家で圭次郎が一番偉いっぽいし。
練習熱心だなあ、本っ当……良い動きしてるな、どっちも。
それだけコスプレ人生に命かけてんだな。すげぇよ、圭次郎。このままコスプレ界の絶対王子になっちまえよ。
ここまで真剣だと心の底から応援したくなってしまう。武器もなければ、腕や脚がぶつかり合うこともない戦闘ごっこでも、双方が本気なら迫力が凄まじい。もうこれ、ショーにして金取ってもいいくらいだ――。
見惚れて夢中になっている俺の前に、急に飛び退いた圭次郎が来る。
「わ……っ」
あまりに唐突で、うっかり俺は声を出して後ろに下がってしまった。
ガッ、と踏み込む内履きの音。ダメ押しだった。
圭次郎と黒尽くめの男が各々にこっちを見てしまった。
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