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第9-2話厄介なものに絡まれてしまった

 宗三郎先生――ソーアさんはペンを放り投げ、慌てて立ち上がってこちらへ駆けてくる。  着ている白衣の裾がひらめいたと思ったら――すぅ、と衣服が神官っぽいものへ変わる。途端に圭次郎の周囲に浮かんでいたような光球が、ソーアさんの周りにも浮かび出す。  各々に廊下へ駆け出した際、すぐにソーアさんは俺の隣へ並んだ。 「太智君、殿下は今どちらに……?」 「正面玄関の近くで、ハデな甲冑きた男と戦ってます。火の鎖で縛り上げて、今にも全焼させそうな勢いです!」 「そうですか……後始末のみで済みそうですね」 「後始末って、まさか……焼死体を片付ける……」 「安心して下さい、世界が違うもので攻撃しても効きは弱いのです。その内容なら体力が激しく消耗して二、三日寝込むほどで済むかと……」 「死なないなら良かったぁ……でも、何日も寝込むほどのダメージって……死ぬよりマシだけど」 「完全に見えない人間ならその程度で済みます。しかし太智君、どんな経緯があったか知りませんが、君は殿下と婚姻を結んだ以上は我ら側の人間。同じ目に遭えば、君はしっかりと傷つきますから……どうか気を付けて下さい」  ……何も見えないままのほうが良かったってことじゃねーか……。  本気でアイツ、俺を巻き込みたかったんだな……と怒りを溜めていく中、圭次郎の姿が見えてくる。  完全に相手を制圧した圭次郎は、甲冑男を横倒しにした挙句、背中を踏みつけて冷ややかに見下ろしていた。 「この俺の手を煩わせやがって……ソーア、遅いぞ。コイツの後始末を頼む。それからヤツに繋がる何かがあるか、調べておいてくれ」 「御意に、ケイロ殿下」  即座にソーアさんが跪いて頭を下げる。それを横目で見やってから、圭次郎はゆっくりと俺に顔を向けた。  ニィィィッ、と。表情が消えていた顔に、人の悪い笑みが浮かぶ。  背筋に悪寒が走って俺は思わず後ずさる。  ものすごく厄介なものに絡まれてしまった――さっぱり事情は分からなくても、それだけは確信が持ててしまった。

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