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第10-2話不思議工事でプライバシー消滅
いきなり圭次郎の声が聞こえて、俺はベッドから飛び起きる。
するといつの間にか圭次郎が俺の勉強椅子に腰かけ、脚を組み、わずかに微笑みながら俺を見つめていた。黒のハイネックにジーンズというシンプルな格好がコイツの無駄に整ったツラを際立たせていて、驚きと同時にちょっとムカつく。
「も、も、百谷ぁ……?! どこから入ったんだよ?!」
「成り行きとはいえ婚姻関係を結んだからな。自由に部屋を行き来できるよう、空間を繋げさせてもらった」
ニッと歯を見せてから圭次郎が窓を指差す――フワ……と光のモヤが現れ、その向こうに簡素な部屋が薄っすらと見える。
王子様で顔も派手なのに、部屋は地味なんだなあ……なんて現実逃避でぼんやりと考えてから、俺はハッと我に返った。
「勝手に人の部屋を不思議工事するなよっ! あと断りもなく入って来るな! お前の世界にはプライバシーっていう概念はないのか?!」
「世界は違えど、夫婦になればプライバシーはいくらか共有するものではないか?」
「そ、それはお互いの同意があって成り立つモンだろ?! 少なくとも俺はこの結婚に同意してないからな!」
グッと左手を硬く握り込んで俺は熱く訴える。でも圭次郎は妙に落ち着いたままだ。
「まあ俺たちの場合、俺が望めばそれがすべてになるからな……まあ諦めろ、としか言えんな」
「百谷っ、あのなあ――」
「こっちの人間がいない時はケイロと呼べ。俺の本来の名だ。それと、ようやく時間が作れたから、この俺がわざわざ足を運んで事情を説明しに来てやったんだ。ありがたく思いながら清聴しろ」
どこまでも偉そうな態度に腹は立ったが、いったいどうなっているのか詳しい話は聞きたい。俺は苛立ちをぶつけたい気持ちをグッと堪え、開けば文句と責めの言葉しか出ない唇を硬く閉じた。
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