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第35-1話司書の舞野先生

 ……どうしてお前は、そんなに俺を落としたがるんだ……?!  いっそ胸ぐらを掴んで思いっきり揺さぶりながらケイロに聞いてしまいたい。  でも、コイツに触られてしまうと脱力して、そんな気概も気力も奪われて骨抜きになってしまう。  熱く溶けてしまった目でケイロを見つめながら、薄く開いた唇を持ち上げ、俺は新たなキスを強請る。  もうこれが答えだと言いたげに、ケイロの目が笑う。そして俺の体が望んだままに唇を近づけて――。 「古角、そこにいるのか?」  若い男の声が聞こえてきて、俺たちはハッと我に返る。  小さく舌打ちしながらケイロが離れ、俺はかろうじて戻ってきた力を振り絞って、崩れ落ちないように膝へ力を入れた。  俺が本棚から顔を覗かせて声の主を見ると、そこにはボサボサ髪の冴えない男――司書の舞野先生がいた。 「こっちにはいませんよ。古角なら、さっき俺たちと入れ違いで図書室を出て行きました」  古角というのは悠の名字だ。俺の話を聞いて、舞野先生は額を押さえながら大きく息を吐き出した。 「しまった、入れ違いになっちゃったか……古角が探していた本が見つかったから、渡したかったんだが……」 「良かったら俺が明日渡しますか? 同じクラスですし」 「いや、僕が自分で渡すよ。ありがとう……えっと……坂宮君」  俺の制服の胸元についている名札を見てやっと俺の名前を言うと、舞野先生は踵を返して離れていく。

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