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第38-1話悠への疑惑
「わ、悪い……大、丈夫だったか?」
「これぐらいは想定の範囲内だ。問題はないが、雑念は捨ててパスに集中しろ」
雑念はお前のせいだからな?! と一度心の中で叫んでから、俺は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
いくら俺を振り回すアイツに腹が立つにしても、ジュッと燃やしてケガなんてさせたくない。魔法であっても火を扱うなら慎重に、というのは世界が違っても同じなのだろう。
「次行くぞ。しっかり取れ」
ケイロからパスが飛んでくる。
やはり火の揺らめきが迫ってくるとドキッとするが、俺は逃げたくなるのを堪えてボールを取る。
一瞬、手の平に熱を覚えたが、ストーブに手をかざした時くらいの温度。
まったく怖くないと分かってからは、今までと変わらない調子でパスの応酬をすることができた。
ケイロとのバスケを切り上げて部活へ向かった後も、俺は野球でサードを守りながら練習していた。
練習試合で俺の所へボールが来たら、すかさず取ってファーストへ投げ渡す。その時に火をともして、魔法の自主練もしてしまう。
こっちの人間相手に少し火を点ける程度ならほぼ影響ないみたいだし、火傷の心配はない。普通にボールが体に当たるのとなんら変わらないから安心だ。
野球の球に火が点いて飛んでいく光景は、どんな野球少年でも夢見るような魔球そのもの。俺しか分からないのが残念だなあと思っていたら――。
――ファーストを守っていた悠が、身を縮めてボールを避けた。
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