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第44話最終巻のハイタッチ

 シュウゥゥゥ……。火の球パス練習の時と同じように、ケイロの手がボールを捕った刹那に炎は消えて白煙が吹き出す。そして何事もなかったのようにドリブルを始めた。 「その調子だ太智! もっと遠慮せずに俺へぶつけてこい!」  周囲には真意が分からない、俺たちだけで通じる内容。  ……どんどんやれってか。ボール取り損ねたら大ケガするっていうのに……あと名前呼びになってんぞ。こんな大勢いる中で……ったく。  試合中盤から、俺たちの間だけで作戦が変更した。  俺がパス出す時は火の威力は抑えない。ケイロを信じて火力増し増しでパスして、ケイロがうまく手元で鎮火して新たに手頃な火をともす。一気に魔物を払うことができるから、積極的に俺はボールを取りに行った。  さらに応酬が増えた小まめなパス。  パスカットでボールに指先が触れる際も呪文を小さく素早く唱えて、ファウルボールすらコート外の控え魔物たちへの攻撃に変えた。  終盤になるとケイロだけじゃなく、俺のプレイでも歓声が上がるようになる。  どうもボールを奪いに行く俺の気迫と執念が、観客に受けているらしい。そりゃあ必死だからな。俺が脅威と認定されたっぽく、魔物たちは積極的に俺へ攻撃するようになったし。  がむしゃらにボール持って、炎で攻撃しまくって、試合運びなんてもう考えられない状態になってた。  そして――ピィィィィッ! ゲーム終了の笛が鳴る。  我に返って周囲を見渡せば、いつの間にか魔物たちの姿は消えていた。 「ハァ、ハァ……あ、得点は……?」  乱れた息のまま俺はスコアボードを見やる。  49-47。  僅差で俺たちのクラスが勝利していた。  一瞬、周囲が静まる。  俺はすぐにケイロを探し、ゴールのリング下で立ち尽くしている姿を視界に入れた。  目が合うと、どこか呆然とした眼差しでお互いに見つめ合ってしまう。  歓声が上がって我に返った途端、俺たちは駆け出し――。  ――パァンッ! 全力でハイタッチを決める。  ケイロに貸したバスケ漫画の最終巻、同じチームのライバル同士が感極まって交わしたシーンと重なった気がした。  さらなる歓声が俺たちを包み、まだ治まらない動悸をさらに煽ってくる。  じわじわと勝利の実感が込み上げるにつれ、俺たちの顔は緩んでいった。

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