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第25話 兄の言葉

 三人のティータイムはまったく盛り上がらなかった……いや、そう感じてたのは俺だけかもしれない。  さやかはいつもよりもはしゃいでいたような気がするし、伊央利も彼女の話に相槌を打っている。  ただ俺にとって救いだったのは、伊央利はさやかの話を聞いているふりをしながらも本当はすごく俺のことを気にかけてくれているのが伝わって来たことと、彼女が作って来たクッキーを一つも食べなかったことだった。  勿論俺がクッキーを食べなかったのは言うまでもないだろう。  結局一時間ほどでさやかは帰って行った。  彼女が玄関から出て行き、伊央利がカギをかけ、チェーンまでしっかりしたのを見た途端、俺の体から力が抜けた。 「大和!?」  廊下で座り込んでしまった俺を見て、伊央利がびっくりしてる。 「大丈夫。なんでもない。伊央利と二人きりになれて安心しただけ」  伊央利は俺を抱きかかえてくれ、ソファに座らせてくれた。 「大和、俺が帰ってくるまでにさやかと何があったんだ?」  伊央利が作ってくれたカフェオレを飲みながら、俺はさやかとのやり取りを全て伊央利に話した。 「さやかが俺を好き?」  伊央利は意外だという顔をした。 「うん。はっきりそう言った」 「……さやかが俺を好きでも何の問題もないだろ。俺はさやかに特別な感情はまったく持っていないし」 「うん……。でもね、俺のこと兄離れできてないとか、伊央利は俺のこと迷惑がっているとか結構キツイこと言われた」  あのときの会話を思い出すと涙目になってしまう。  伊央利がそんな俺の頭を優しく撫でてくれながら言う。 「そんなこと気にすんな。大和は一生兄離れなんかしなくていいし。俺が大和のことを迷惑に思うことなんてありえないって、分かってるだろ?」 「うん……伊央利……」  俺は飲んでいたカフェオレをテーブルの上に置き、兄に抱擁を強請った。  伊央利は俺の体をふわりと抱きしめてくれる。  もたれかかった胸から伊央利の規則正しい鼓動が聞こえて、さやかとの会話でささくれ立ってしまった心が癒されるのを感じた。 「いい加減、さやかの差し入れも断らなきゃな」  伊央利が、二人とも手を付けなかったクッキーに視線をやりながら、呟く。  俺と伊央利の気持ちが通じ合い、夕食を作るのは二人一緒にということが多くなってからは、さやかの作って来る差し入れはほとんど食べなくなった。  捨ててしまうのはさすがに勿体ないので、近所にお裾分けしたり、冷凍保存したりしている。 「このクッキーどうするの?」  心が狭いと言われようが、さやかの手作りクッキーなど絶対伊央利には口をつけて欲しくない。 「そうだな。二軒先のヤマサキさんのとこ小学生の兄妹がいだだろ。あそこへお裾分けでもすればいいんじゃないか」  そう言いながら俺の背中を撫でてた手が、不意に妖しい動きをする。 「あっ……ちょっ……伊央利、どこ触ってるの?」 「だって大和がぴったりと俺にくっついて来るんだもん。可愛くて我慢ができない……。していい?」 「あ……んっ……でも、まだ明日学校が、ある……」 「体育の授業はないから、いいだろ。優しくするから……大和……」  伊央利の手が俺のズボンの中へと入り込んで来る。 「あっ……や……伊央利……」  抵抗するのは表向きだけ。  だって俺だって本当は毎日だって伊央利と一つになりたいから。  伊央利の手が直に俺の昂ぶりに触れる。  甘い吐息を零す唇をキスで塞がれ、舌と舌を絡ませ合う。  俺は伊央利の広い背中に腕を回して縋りつきながら、彼の与えてくれる快楽に身を委ねた。

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