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第28話 従姉妹の告白3
音の正体は大和が落とした鞄だった。
青ざめた顔のまま茫然と立ち尽くす弟は、今の場面を見てしまったようだ。
「誤解だ、大和」
俺とさやかは決してキスなんてしていない。
さやかが一方的に唇を押し付けてきただけで、あんなのはキスだなんて言えない。
けれども大和はそうは思わなかったみたいで、落とした鞄を拾うことなく俺とさやかの隣を通り抜け、無言のまま家になかに入ってしまう。
「大和っ」
すぐに大和を追いかけようとする俺の手を掴んだのはさやかだった。
彼女は楽しそうに笑っていたが、俺が睨みつけると一転挑むような目になった。
「言ったでしょ、伊央利。あたし、あきらめないって」
俺は彼女の手を振り払うと、大和の鞄を拾い、玄関の戸を開けた。
そんな俺の背中にさやかの声が追いかけて来る。
「伊央利、あなたと大和くんは兄弟なのよ? いつかは離れなきゃいけない運命なの!」
俺はさやかを視線で射貫くように睨みながら、言葉を投げた。
「さやかには関係のないことだ。……俺と大和は一緒に生まれて来て一緒に育った。これからも離れる気はないよ」
そしてもうさやかの方を見ることはしないで、傷心の弟のあとを追いかけた。
大和はどうやら自分の部屋に引き籠ってしまったようだ。
「大和、開けてくれ。話がしたい」
最初はノックをし、そんなふうに声をかけたが、大和からの返事がないので、俺は強引に彼の部屋へ入ることにした。
鍵がなく、ちょろこいドアだったことが幸いして、少し力を込めて押したら、すぐに開いた。
大和の部屋に入った途端、クッションが飛んできた。
「伊央利の浮気者!」
そんな言葉と共にまくら、漫画雑誌、教科書などが次から次へと飛んでくる。
俺はそれらを避けながら、必死に大和の誤解を解こうとした。
「だから大和、誤解だって。おまえ。あのときの俺とさやかの前後のやり取り聞いてなかったのか!?」
「知らない。だって伊央利キスしてた、さやかさんと……」
「あんなのはキスって言わない」
俺は大和のすぐ傍に行くと、泣きじゃくり暴れる彼を抑えつけ、唇を重ねた。
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