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第38話 信じられない2
「さやか……、てめぇ……」
伊央利は激しい怒りのオーラを纏ったまま立ち上がると、さやかの方へと近づき、彼女が手に持っていたスマホを取り上げた。
「なにすんだよっ……」
さやかの男のような口の利き方に、俺は驚く。
伊央利は彼女のスマホを操作して、保存された写真を俺の方へと見せた。
「…………!」
そこに映っていたのは全て俺だった。
ついさっきここで撮られたのだろう、乱れた制服姿で気を失っている場面から始まり、一体いつ撮られたのかも分からないものまで、数えきれないくらいの俺の写真……。
俺は血の気が引くのを感じた。
伊央利はさやかのスマホを地面に転がっている大きめの石へ叩き突け、それからとどめとばかりにそれを靴で踏みつけた。
ベキッという音を立ててさやかのスマホが壊れる。
「てめっ……伊央利っ……なにすんだよ! あたしのスマホッ……!」
さやかが手を伸ばして伊央利の胸倉を掴むと、伊央利はその手を乱暴に払いのけ、そのまま彼女の頬を思い切り叩いた。
さやかが叩かれた頬を手で押さえつつ、すごい目で伊央利を睨みつける。
「最低、女に手を上げるなんて」
「誰が女だよ。やってることはストーカー男と変わらないじゃねーかよ」
伊央利はそう言葉を言い捨てると、もうさやかの方は見ることはせず、俺の方へと戻って来てくれた。
「大丈夫か? 大和。心配したんだぞ」
「ごめん……。……でも伊央利、どうしてここに……?」
俺が問うと、伊央利は少しバツが悪そうな顔になった。
「……あー……GPSを使って、追跡した」
「ジーピーエス……そうだったんだ……」
「怒った?」
「伊央利なら、構わないし……こうして助けに来てくれた……」
他の誰かだと不快でしかないけど、伊央利だったら許せる。
俺が小さく笑って見せると、伊央利は強く俺を抱きしめてくれた。
そんな俺たちにさやかの声が飛び込んで来る。
「あんたたち、実の兄弟のくせに深い関係になってること叔父さんや叔母さんが知ったら、身の破滅よ」
そして彼女のけたたましい笑い声が荒れ地に響き渡る。
「伊央利……、ごめん……俺の失言で」
二人の関係を彼女にはっきりと悟らせてしまった。
俺が伊央利の服に縋りつくと、伊央利は優しい瞳で俺を見つめてくれ、頭を撫でてから、一転凍り付くような冷たい目でさやかを見ると言葉を放った。
「さやか、俺たちのこと父さんや母さんに言いたければ言えばいい。俺は二人の仲がバレること、別に恐れてなんかいないから」
きっぱりと言い切った伊央利にさやかが悔しそうな舌打ちをする。
伊央利は荒れ地に座り込んだままだった俺を支えて立ち上がらせてくれた。
「あんたたち、覚えてなさいよ! 絶対後悔させてやるんだから」
さやかがまた叫んだが、俺たちは今度こそ二度と彼女の方を見ることなく、荒れ果てた地をあとにした。
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