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第39話 修羅場の後

「大丈夫か? 大和」  伊央利が、羽織っていたパーカーを俺に着せかけてくれ、心配そうに顔をのぞき込んで来る。 「ん……。大丈夫だけど」 「けど?」 「ちょっとお腹が痛い」  落ち着いたら色んな事が思い出されてきた。  意識を失う前、腹部にすごい衝撃を感じたのはさやかに殴られるか、蹴られるかしたのだろう。  女の子に暴力を振るわれて気を失うなんて情けないと、自嘲の意味を込めて伊央利に話すと、彼はまた怒りが再燃したようだ。 「さやかの奴……もう一発くらいぶん殴ってやれば良かった」  伊央利は本当にもう一度さやかのところへ戻ってぶん殴ることをしそうだったので、それを必死に止めながら俺は呟いた。 「……でも、さやかさんが俺のこと好きだったなんて、信じられないよ。だって彼女は伊央利のこと好きだってはっきり俺に言ったんだよ?」 「それは俺たちの仲を壊したかったから、そんなふうに言っただけだろ。さやかにとって俺の存在は邪魔以外のなんでもないんだから」 「でも、やっぱり本当の本当は伊央利のことが好きなんじゃないかな」  俺が尚もそう主張を続けると、伊央利は重い溜息をついた。 「どこまで自覚と危機感がないんだよ、おまえは。あの写真、見ただろ。おまけに服まで脱がされて……俺がどんな気持ちだったか……」 「ぬ、脱がされるまではしてないじゃんっ……」 「おまえの肌を少しでもさやかに見られたかと思うと、それだけで許せないんだよ」  伊央利はそう言って、俺のYシャツの第一ボタンのあたりに触れる。 「……ごめんなさい……」  そうだ、逆の立場になって考えてみるとよく分かる。  伊央利が俺以外の誰かに、あんなふうに服をはだけさせられているのを見てしまったら、俺も絶対許せない。 「……大和が謝ることないけど、これからはもう少し自分が人を惹きつけるって自覚を持って欲しい」 「うん……」  俺自身はやっぱり自分にそんな魅力があるなんて思えないけど、伊央利はこんな俺を好きになってくれた。  だから俺は伊央利の言葉に素直に頷いて見せた。 「帰ったら、即風呂入るからな、大和」 「え? なんで?」 「さやかの奴に肌に触れられてるかもしれないだろ。だから俺の手で洗ってあげる」  そう言うと伊央利は俺の頭を優しくポンと叩いた。

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