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第42話 離さない
伊央利が体を洗ってくれるだけのはずが、やたらと濃いセックスまでされてしまった所為で、俺は少しのぼせてしまった。
おでこに冷却シートを張りながらリビングのソファで横たわる俺と、俺の足元で濡れた髪を拭っている伊央利。
俺はぐったりとしてしまっているというのに、伊央利はのぼせたふうもなく、いつも通りクールでかっこいい兄だ。
俺はつくづく双子の兄を見つめた。
伊央利はジーンズを穿き、上半身は黒のシャツを羽織っただけでボタンはとめず前を全開にしているのだが、その姿がやたらと色っぽい。
思わず見惚れていると、伊央利と目が合った。
「何? 大和」
少し首を傾げて笑いかけてくれる伊央利はやたらと綺麗でもある。
こんなにかっこよくて色っぽくて綺麗な兄が、禁忌を犯してまで俺を選んでくれたことが今更ながら本当に不思議だった。
尚もマジマジと伊央利の顔を見つめていると、彼は困ったように笑う。
「大和、おまえ、風呂であれだけしてまだ足りないの? そんなに誘うような目、するなよ」
「なっ……? そ、そんな目なんかしてないっ」
「俺はおまえが相手だと理性は蜘蛛の糸よりも細くなるんだから、あまり誘惑しないでくれ……っていうか、大和の場合無自覚だからなー」
「だから誘惑なんかしてないって……」
「分かった分かった」
本当に分かってくれたのか怪しいものだが、これ以上この話題を引っ張ると、自分がひどい淫乱のような気がしてきそうで、やめた。
「それより伊央利、晩ごはん、どうするの? 俺、もう指動かすのも面倒だよ」
「デリバリーのピザでも頼めばいいんじゃないか」
「あ、そだね。久しぶりにピザ食べたい」
「それで決まりな」
伊央利は俺の右手を取り、自分の唇に当てた。
愛おし気に何度も俺の手に口づけをくれていた伊央利が、不意に泣き笑いのような表情を見せた。
伊央利のこんな顔を見るのは初めてで、俺は戸惑ってしまう。
伊央利は戸惑う俺の方にかがみこんで来て、強く体を抱きしめてくれた。
そして、囁かれる言葉。
「一生離さないから」
「……伊央利……」
怖いくらい真剣な声での誓いに、俺の涙腺は一気に崩壊した。
俺の涙には弱い伊央利もこんな幸せすぎる涙なら甘受してくれるようで。
目尻にたまっては零れ落ちる涙を舌で優しく舐め取ってくれている。
俺は重い手を持ち上げて伊央利の背中に縋りつき、
「俺も伊央利のこと一生……ううん、生まれ変わっても離さない」
誓いの言葉を紡ぎ返した。
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