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第3話
「ただいまぁ」
玄関の戸を適当に閉めると、とたんに外の雨音は遠くなった。
雨に濡れた靴下が気持ち悪くて、脱ぎながら室内にあがる。母親はいないようだ。
スマートフォンを取り出して見遣れば、すれ違いに連絡が入っている。
『ちょっとご飯食べてきます。お風呂に入って、早めに寝なさいね』
ハルは、それに対して返事は持ち合わせていない。
恐らく最近母親にできた恋人と会っているのだろう。町内会の役員とかで…………ハルにとってはどうでもよかった。
玄関からリビングへ通り、やはり雨に濡れたバッグを放り投げる。
ソファの上でそれはぽふんと跳ねた。特にそれも直さずにテレビをつけると、そのまま洗面所へタオルを取りに行く。
がしがしとタオルで髪を拭きながらリビングへ戻る。
テレビにはドラマが映し出されていた。以前友人が観たかとか観ないかとか言っていたものだ。
ハルより少し上――女子高生とやらが制服のスカートを揺らしながら、楽し気に仲間たちと話している。
『ねえ聞いた? D組のサヤカ!』
『聞いた聞いた! エンコーしてるんでしょ!?』
『やだー! やばくない!』
それが耳に入ると、ハルは頬が熱くなるのを感じて慌ててテレビの電源を落とす。
放りなげたバッグを掴むと足早に自室へと向かう。
『エンコーしてるんでしょ!?』
女子高生役の女優の声が、まだ耳にこびりついている。
部屋に駆け込むと、その背で押すようにドアを閉めた。
そして背を預けたまま、そこへずるずると座り込む。
「で? ほんとに、なんでハルがここに?」
シティホテルに併設されたコンビニ。
まるで世間話でもするように雑誌コーナーへ並ぶと、夏生は興味もないだろうにテレビ雑誌を掴む。
「夏生こそ、なんで」
「オレ? 気になるの?」
そうして夏生は、ぱらぱらと雑誌のページをまくった。
その風圧が、夏生の耳にかかった、少し長い毛先を揺らす。
――洗い立ての、シャンプーの匂いが煽られて漂った。
「……あのオジサンと、何してたか知りたい?」
ハルの息が詰まる。頭に浮かぶのは、金銭の生じる悪いあそびのことだ。
「あれ? ハルってば、変なこと考えてる?」
そしてくすりと笑った夏生は、知っているようで、知らない友達だった。
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