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「てかさぁ、マジで和彦と芝浦は何もなかったのか? いつも和彦にこの話すると濁されて終わんだよ。 濁すって事は何かありそうなんだよなー」 「なっ、ななな何もないけど?」 「ほんとか? すげぇどもってるけど」  俺は九条君の噂についての話題の続きを待ってたのに、出てきたのは和彦の名前で過剰に反応してしまった。  そりゃ……和彦が言えるはずないよ。  寝てた俺に突っ込んじゃった、なんて。  とは思いつつ俺も、そのまま心も体も和彦に奪われたよ!……なんてとても言えないし。  一ヶ月も前の事を未だに覚えてて、興味津々な占部の話を逸らそうとオムライスにがっつくと、見事にむせて咳込んだ。 「……うっ……っ」 「おい七海、大丈夫か? 水のおかわり持ってきたら?」 「う、うん…………」  事情を知る九条君の機転で、占部の意識を逸らすべく一度離席させてくれた。  さすが、将来弁護士様は頭がいい。 目配せがキマってた。  紙コップに新たな水を注いで戻ると、さすがに別の話題に移るだろうと期待した九条君と俺の思惑は、ふいにされた。 「そういやウーロンハイの真相もまだ分かんねぇしなぁ。 あの居酒屋行って店員に問い詰めてみようと思ってたのに、なかなか行けなくてな」 「ウーロンハイの真相?」 「ウーロンハイの真相?」  ……え、何それ。 推理小説の章タイトル?  九条君と俺が声を合わせて占部を見ると、同時に視線を向けられて居心地が悪かったのか、占部はスマホをイジりながら語り始めた。 「あぁ、……あの日な、芝浦の酔い方が変だっただろ。 店ん中混んでて店員もパニクってたし、名札に初心者マーク付けた新人多かったから、怪しくない?って話を和彦にしたんだよ」 「怪しいって何が……?」 「待てよ。 酔い方が変ってどういう事だ? 七海、そんなに飲んだのか?」  九条君に問われて、俺はあの日の記憶をちょっとずつ呼び起こしてみる。  合コンよりもその後の衝撃が凄まじいからあんまり覚えてないけど……確かにあの日の俺の潰れ方は妙だった。 「いや、たぶん……ウーロンハイ二杯だよ。 俺それくらいじゃ絶対に酔わないんだけど、なんか二杯目飲んだ辺りから世界が回ってさぁ。 気分悪くなるし意識飛ばすし最悪だった」 「だろ? 芝浦の酔い方、普通じゃなかったんだよ」 「それって店側に原因あるんじゃねぇの? 七海は大して酒強くねぇけど、弱いってほどでもないもんな」 「そうなんだよ! 俺もそれはちょっと気になってたんだ。 何だったんだろ?」 「次の日から七海、体調悪くなったじゃん? それと関係あんのかな」  俺は腕を組んで、うーん……と唸りながら首を撚る。  翌日は頭も痛くて気分も悪かったし、後から熱が出た事を考えると風邪の諸症状なんだと思い込んでたけど、二日酔いもあったのかな。  寝不足と、初めてのセックスの疲労と、意味不明な二日酔いのトリプルパンチで、俺の中に潜んでた風邪菌が活発になった……って事?  でも、それと「ウーロンハイの真相」がどう結び付くのか分からなくて、九条君と共に占部を凝視した。   「占部……だったか? その、ウーロンハイの真相って何だよ」 「いいか、あくまでこれは俺の予想だけど、初心者マーク付けた新人がパニクって、うっかりウーロンハイにウォッカとかテキーラ混ぜてたとしたら……芝浦の即落ちも納得出来ねぇ?」 「ウォッカ!? テキーラ!?」 「……あり得ない話じゃねぇな。 分量にもよるが、んなもん七海が飲んだら世界回るのは確実」 「う、うぇぇ……、俺知らない間にそんな初体験もしてたの? そうだとしたら濃い一日だったよマジで」 「何だよ、他にも初体験したのか?」  ポロっと出た台詞に食い付く占部は何気ない顔をしておきながら、テーブルに肘を付いて身を乗り出してきた。  もしかして占部、俺と和彦の間に何かあったんじゃないかって、もう勘付いてるんじゃないの?  こんなに興味津々に追及されると、俺の心臓もそう長くは保たないよ。 「え!? あ、……あっ! ほら、王様ゲーム! 王様ゲームしたじゃん、あれは俺初体験だったなぁ!」 「あぁ〜そういえば王様ゲームしたな。 その途中で芝浦は倒れたんだっけ」 「そ、そうそう!」  まさにあの時にファーストキスまで和彦に奪われたんだけど、そこまで言うとまた占部の興味をそそる話題を自分から提供する事になりかねない。  うまく取り繕えたと安堵し、水を飲む俺の目の前で両手で顔を覆って笑いを堪えている男がいる。  そんなに肩揺らしてたら、いくら顔隠しててもバレてるから……。 笑ってんだろ、九条君。  ジト…と九条君を見て、それからダメ元で連絡がきてないかスマホを確認してみても、通知はゼロ。  何だよ何だよ……和彦の奴、本気で俺を一人で帰す気なのか?  ストーカーへの報復より、俺は和彦に傍に居てほしいんだけど。  ───俺を一人にした罰だ。 こんな事、絶対に本人には言ってやらないもん。 「あ、俺次の講義あるんだった。 じゃ芝浦、九条、お先に。 近々飲みに行こうな!」 「おぅ」 「うん。 占部バイバーイ」  興味津々男が去ってくれて、今度こそほんとに安堵した。  占部っていい奴なんだけど……空気読めないとこあるんだよな。  ……あぁ、そういえば占部のお父さんも和彦父の会社で働いてるんだっけ。 その会社って、もれなく空気読めない人間が生まれるのかな。  窓の外を眺めながらそんな失礼な事を考えていると、目尻の涙を拭う九条君から「なぁ」と呼び掛けられた。 「七海、お前さ、あいつとの事バレたくないならあんまり喋るな。 自分からボロ出しまくってるぞ」 「うっ……分かってるよ、分かってる。 俺こんなに会話下手だったなんて……。 てかさぁ、九条君クスクスしてたのバレてんだからな。 涙出るまで爆笑してんじゃないよ、まったく」

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