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 逃れられない振動が、性器を揺さぶり続ける。  亀頭部分から竿、玉の裏側やその周辺をじわじわと移動するそれに、抵抗なんて一つも出来ないまま無理やり勃起させられていた。  気持ちいいのか何なのか、よく分からない。  ひたすらに下半身を弄ぶ鈍い振動音を響かせるそいつよりも、和彦がそれで俺をいたぶってるという事に興奮していた俺は、とうとう変態の扉を開いてしまったのかもしれない。 「も、もっ、もうっ、和彦……っ、やめ、っあぅぅぅ……!」 「気持ちよくないですよね?」 「……っは、っ? い、いや、……」  暗闇だと和彦の声が五割増しでイケボに聞こえる。  下半身を震わせている和彦自身から、そんな同意を求められても戸惑うだけだった。  気持ちよくない事はない。 だって勃ってるし……かと言ってイけそうな気はしないけど、初めての機械的な刺激に頭と心がついていけてないって感じ。  怯んで俺が逃げてしまわないようにガシッと掴まれていた腰元から、手のひらの感覚が消えた。  語弊があるかもしれないけど、まさしく恋人達がエッチするためだけの部屋内に、性器にあてがわれた卑猥な振動音が響く。 「気持ちよくないって言ってください」 「なっ? なっ? ど、どういう事……っ」 「そう言ってくれないとやめられない。 こんなのじゃ嫌だ、僕がいいって言ってくれないと、やめてあげたくない」 「何だよ、それ……んんぁっ……! ちょっ、和彦っ、強くしたろっ?」 「だって七海さんが言ってくれないから……」  和彦の声がしゅんと落ち込んだ。  ……分かった。 和彦め、また嫉妬してるのか。  俺が抱き締めてしがみついてた枕にまで嫉妬する奴だ。  また勝手に想像力を働かせて病んで、嫉妬に狂い始めてる。  継続する刺激に膝がぷるぷるしてきたけど、この和彦をそのまんまにしてたら暴走してしまうのが目に見えてるから、俺は両腕を広げて叫んだ。 「和彦っ、……和彦がいい、っ! そんなの嫌だ、イヤ……っ」 「ですよね。 うん。 そうですよ」  ひんやりしたやらしい玩具より、温かい和彦の手のひらで触れられたいって思ってたのは本当だったから、躊躇は無かった。  広げた両腕を握ってくれた和彦は、バイブのスイッチを切ってポイと床に投げ落とした。  御役御免となったあれには申し訳ないけど、大人の玩具の初体験をしたって事実だけで、俺はそんなにイイとは思わなかった。  覆い被さるようにして抱き締めてくれた、和彦の素肌と触れ合う事の方がよっぽど好きで、どれだけこの体温を求めていたかを身を持って知る。 「はぁっ、はぁ……っ、はぁ……」 「興味本位でしたけど、あれによがって可愛い声を上げてる七海さん見てると……何だか別の人に犯されてるのを僕が黙って見てるだけ、みたいでした」 「それだいぶ歪んだ見方だぞ……!」 「でもそう感じたんですもん。 玩具は失敗ですね。 二度と使いません」  ……やっぱりそこまで妄想を膨らませてたか。  俺は今暗闇に居るから、和彦がどんな表情をしてるかが伺えない。  分かるのは、声から察するにムッとしながら俺の胸元に顔を埋めてるって事だけ。  大きな手のひらが俺の肌をさわさわと撫でていく、優しい感触に言葉を詰まらせた。  お仕置きと称して目隠ししちゃうような男だけど、俺に盲目が故に色々やり過ぎてしまうところはやっぱり愛おしさしかない。  こんなに長時間暗闇に居ると不安でしょうがなくなると思うのに、和彦がそばに居るってだけで不安が興奮に変わる。  玩具は不必要だっていう意見が一致したのにもホッとした。  だって、和彦がいいもん。  無機質で冷たい玩具より、俺を愛してくれる優しくて温かい和彦本人がいいもん。 「んっ……」  手のひらの熱に浸っていると、ちゅ、とキスされた。  そして、ぬるぬるしたローションらしきものを後孔に塗りたくられる。  蟻の戸渡と孔付近をたっぷりと濡らした和彦は、暗闇の住人と化した俺が怖がらないように「いれますよ」なんて囁いてから、くぷっと指先を挿入した。 「七海さん、やわらかい」 「い、言うな……!」 「さっきたくさん解しましたもんね。 洗浄もうまく出来たと思うんですけど、どうですか?」 「ん、んっ? いや、分かんな……ぁっ、あっ」  膝を折り曲げられて、和彦にすべてを晒す恥ずかしい格好を強いられても、見えないからそれは好都合だった。  でもそのせいか……中を蠢く指先の感覚がやけにリアルだ。  じわ、と奥を目指す和彦の中指は、いつもこんなにやらしく動いてたっけ……。  拓こうとする意思を持ったそれが挿抜される度に、襞を擦られて喘ぐ俺の声が和彦をその気にさせていく。 「……可愛い……。 セックスはこうでなくちゃ。 僕の指が七海さんを犯してる……」 「あっ、……そ、んな……っやらしい言い方……するなっ」  指の本数が増やされていくと、圧迫感も前立腺への刺激も顕著になった。  控えめにしようと頑張っても、鼻にかかった喘ぎはどうしたって抑えられない。  和彦は不敵に笑ってる。 ……たぶん。  甘く綺麗な顔立ちが、興奮にまみれて男らしく欲情し、早く繋がりたいと思ってくれるんなら俺はすごく嬉しい。  噂話に動揺しまくった俺は、逃亡まがいにこんなところまで来ちゃうくらい紛れもなく「和彦に恋してる」って気付いた。  そんな俺が、わざわざここを選んだ意味を和彦が悟ってくれてると信じたい。  俺は和彦じゃなきゃダメだけど、ふとよぎる「媚薬」の二文字が暗闇での不安を蘇らせてきた。  蠢く指先にぶるっと身を震わせながら手のひらを彷徨わせて、待ったをかけるように和彦の髪に触れる。 「か、和彦……っ、なぁ、……聞いていい?」 「はい? どうしました?」 「俺とエッチするの、好き……?」  そう問うと、内壁をかき回すぐちゅぐちゅという粘膜音と、擦り上げられる中からの刺激がピタリと止まった。

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