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「……え?」  和彦の表情が見えない分、どんな心境でその戸惑いの声を発したのか伺い知る事が出来なかった。  互いの動きがぴたと止まり、俺と和彦の吐息の投げ合いも薄れる。  少しの間沈黙が続いた。  まるで時が止まったかのような静けさにいたたまれず、挿れられたままの三本の指をきゅっと締め付ける。 「あ、いや……ア、アレ、使いたいなら使ってもいいよ? 和彦には我慢してほしくない。 もし、俺とのエッチが実は退屈だって思ってたんなら、正直に言っ……」 「七海さん、やめてください。 そんな事言わないで」 「んっ……!」  見えないんだから、いきなり唇を塞がれるとビックリしちゃうじゃん……!  動きを再開した指先が、ぐちゅ、と前触れもなく前立腺を擦る。  声無き声は和彦の舌に吸い取られ、逞しい二の腕を心許なく握った俺は下半身をぶるっと震わせて身を捩った。 「ちなみに……アレってアレですよね?」 「ぷはっ……っ、アレはアレだ!」 「さっきのローターじゃなくて、媚薬をって事ですよね?」 「そ、そう……」  まさにそのやらしい単語一つで、いくら和彦が宥めてくれようとも俺の不安は解消されない。  ローター(バイブと何が違うんだ)は、和彦も俺も要らないって事で話はついてベッドの下で寂しく転がってるんだろ。  問題は和彦の過去のセックス事情で、これからの俺達にとってはちゃんと話し合わないといけない案件だと思う。  今まで何夜か過ごしてきたけど、それも全部我慢してたんだとしたら悲しい。  めちゃくちゃ悲し過ぎる。  中を優しく解してくれて孔がきゅんきゅんしてるのに、キスで誤魔化そうとはしなかった和彦が「でも……」と声を上げた。  どっちにも集中しなきゃならない俺は、忙しく和彦の声に耳を傾ける。 「僕はもうアレ持っていないんですよ」 「え、……んっ、なくなったの?」 「捨てたんです。 七海さんと出会う直前に」 「捨てた!? なんで……っ、あっ……」 「そんなに使いたかったんですか? あんまり良いものではありませんよ?」 「違う! 俺が使いたかったっていうか、ぁあ……っ、か、和彦が満足してないんじゃないかって……! 過去の事ほじくり返したくないし、っ、んんっ……和彦もイヤかもしれないけど、俺、経験無いから……っ、物足りない、だろ?」  うまく喋れない。  俺の乳首を摘んで弄び、後孔をぐちゅぐちゅと音を立てながら解し続け、会話までこなす和彦は経験値の差なのかムカつくくらい器用だ。  俺にはない、過去。  枕やローターに嫉妬する和彦の事を窘められない。  だってこんなにヤキモチ焼いてる。  媚薬を使ったエッチを経験してる和彦が、童貞処女だった俺との行為にそこまでの快感が得られてるのか、甚だ疑問なんだよ。  不安と嫉妬で、おかしくなりそうだ。  暗闇が嫌になってきた。  和彦の姿を見たい。 見て、安心したい。  いまどんな表情してるんだ。  溜め息を吐いて、孔から指を引き抜いた和彦の体が俺から離れていく。  どこ行くんだって声を荒げそうになってすぐ、和彦の体温が俺を包み込んだ。 「逆ですよ、七海さん。 今までが物足りなかったんです。 七海さんとだと、我慢がきかない。 優しく出来ないと言ったじゃないですか。 あんなもの使わなくても、こんなに気持ちいいんだと知った。 それは相手が七海さんだから、ですよ」 「……ほんとか? ……気使ってない?」 「これで僕の秘密は全部七海さんに打ち明けました。 気など使う理由がありません」 「………………」  ほんとかなぁ……と黙っていると、射精寸前まで追い込まれていた性器をきゅっと握られた。  そのまま数回上下に擦り、亀頭を絞って先走りを舐めた和彦は「美味しい」と笑った気配がした。  そのやらしいイケボと、先端に感じた舌の感触にピクッと体を揺らす。 「僕の過去がそんなに不安を与えてしまったんですね。 ごめんなさい、七海さん。 けれど僕は、七海さんとのセックスを知ってから、淡白で遅漏だというコンプレックスも無くなってしまいましたよ」 「えっ……それがコンプレックス?」 「そうですよ。 皆さん媚薬なんて使わないんでしょう? 僕はことごとくみんなと違うんだなって落ち込みました」  和彦が人と違うところなんていっぱいあり過ぎるけど、それ以上の会話を俺は続けられなかった。  熱くぬめった和彦のものが、孔にあてがわれたと同時にぐちゅ、と挿入されたからだ。 「あっ……か、和彦……っ、ゆ、ゆっくり……!」 「分かっていますが、宣言通り我慢がききませんので……痛いときだけ教えてください」 「……え、あ、っ……んんん───っ」  たっぷり解したという自負からなのか、容赦なく先端を挿入した和彦は、休みなく己のもので奥を目指している。  襞が拡がっていく。  明らかに並ではない和彦の性器が、前立腺を擦り上げて最奥に到達した。  お腹を押すと手のひらに和彦のものを感じてしまいそうなほど、ぴたりと嵌った性器と襞は少しの隙間もない。 「……動いていいですか?」 「も、もう……っ? あ、っ……ちょっ……俺いいって言ってな……っ」 「我慢出来ないって言いました」  俺にお伺いを立てといて、駄々っ子を発揮するなと叱りとばしてやりたかった。  でも俺は、暗闇の中で動き始めた和彦の熱をいつも以上に体感していた。  卑猥な音も、吐息も、触れられた感触も、密着したそこが汗ばんでいく様も、まざまざと。 「あっ……っ、……あぁっ……」  両足を抱え上げられて、ベッドに密着した背中がシーツと擦れてぐちゃぐちゃになっていく。  皺と、二人の体液も、それ相応に。

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